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恵みの雨を待ちながら #13
このエッセイは、2017年、約4か月にわたり韓国の有機農家さん3軒で農業体験取材を行い、現地から発信していたものです。これから少しずつnoteに転載していきます(一部加筆、修正あり)。
2017/06/29
全羅北道長水郡の農園に来てきのうで2週間。26日(月)の夕方から翌日の午前中にかけて、やっと雨が降ってくれた。
この農園がある地域では、6月に入ってからほとんど雨が降っていなかった。幸いここでは장수と呼ばれる湧き水が使えるそうで、毎日スプリンクラーから勢いよく水が噴き出してはいたが、やはり雨の勢いにはかなわない。
農園の主であるジョーさん、ジョンソンさん夫妻、カナダ人カップルのローランド、ペイジーと一緒に、「雨が降ったらいいのにな」という表現をそれぞれの国の言葉で教えあいながら、恵みの雨を待っていた1週間。月・水・金の午前中に野菜の発送準備をする他は、ほとんど外で、土まみれになりながら苗を植えていた。
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先週、エンドウが収穫期を終えたため、きれいさっぱり抜いてしまい、その畝にトウモロコシとキュウリの苗を植えた。長く雨が降っていないせいか、土はカチカチ。強い日差しが照り付ける中で硬い土と格闘するのは、なかなか骨の折れる作業だった。
今回植えたトウモロコシは、もともとフランスの種だという。以前この農園を訪れたフランス人からもらった種を試しに植えたらうまく育ち、味も上々だったため、4年前から毎年育てているそうだ。この農園には、農業に関心のある20~40代が世界中からやってくるので、こうして外国の種をもらう機会も多いという。
「種をもらったら、いつも試しに植えています。土が合わないのか、大抵失敗に終わるんですが、たまにうまくいくことがあっておもしろいんですよ」とジョンソンさん。
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
トウモロコシの苗を植えた後、「今夜はサムギョプサルを食べよう」とジョーさんが言った。ローランドは最近覚えた韓国語で「고기 너무 좋아(肉とても好き)」と言い、目を輝かせた。服を着替えに行ったペイジーの部屋からは「♪サムギョプサ~ル」と歌う声が聞こえてきた。私もつられて歌ったら、カーテンの向こう側でペイジーが弾けるように笑った。
約30分車を走らせ到着した公園で、19時30分から始まったサムギョプサルディナー。ほとんど人がいない公園はどこでも座り放題という状況で、私たちは誰に気兼ねすることもなく場所を陣取り、豚肉を焼き始めた。20時を過ぎる頃まで空は明るく、日が落ちてからはペイジーと2人で、スマートフォンのライトをかざしながら肉を食べ続けた。
韓国の夏は日が長い。そのせいか、夏に韓国を訪れると屋外で食事を楽しむ光景をよく見かける。コンビニや飲食店の前にはパラソル・机・椅子が並び、川沿いや公園ではシートやテントを広げてのんびりと過ごす人の姿も見られる。外でご飯を食べるとより一層おいしく感じるし、何よりとても楽しい。
畑仕事を終えて疲れているはずなのに、肉を食べるためにわざわざ車を走らせ、公園まで連れてきてくれたジョーさんは、こう言って笑った。「一日中、仕事だけして生きるのは嫌なんです」と。農業や食や農家の暮らしだけでなく、私は今、ジョーさんやジョンソンさんから、人生の楽しみ方まで教わっているような気がしている。
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サムギョプサルを食べて力をつけた翌日、先週まで葉物野菜が植えてあった畝にバジルとネギの苗を植えた。バジルは比較的簡単に植えられたが、ネギはかなり手こずってしまった。金属の棒で畝に深く穴を開け、そこに苗を入れて土をかぶせるだけなのだが、土が乾いてカラカラのため、棒を抜いた瞬間から穴がふさがっていったのだ。
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ネギの苗を植える時は特に、しゃがんだままだと足が痛くなってくるので、途中から地面にべタッと腰をおろして作業を続けた。砂ぼこりで全身ドロドロになったけれど、地面と一体化したような感覚はとても心地が良かった。子どもの頃、砂場で夢中になって遊んでいた時のことを思い出していた。
私は昔からネギが食べられなくて、今後も積極的に食べるつもりはないのだが、こうして植えてみると、このネギがどんな味なのか気になってくる。どうか無事に育って、ネギ好きなみなさんにおいしく調理してもらえますように。
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この1週間、日差しが強い時間帯や雨が降っている時は、抜いた後のエンドウからサヤをひとつ残らず切り取る仕事をしていた。サヤを切り取った後は、中の豆を取り出し「乾燥していないもの」「乾燥しているもの」「虫食いがあるもの」の3種類に分けていった。
枯れて茶色くなり、カラカラになったサヤの中には乾燥グリーンピースがぎっしり詰まっていた。それらはお客さんに送るだけでなく、来年の種としてとっておくのだいう。最初、枯れたサヤは捨ててしまうのだと思い込んでいたが、とんでもないことだった。
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みんなで黙々と作業を続け、小さなボールに山盛り一杯のグリーンピースが集まった。ジョンソンさんは早速、豆ごはんを炊いてくれた。
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「グリーンピースが大好きなんだけど、一つずつサヤから取り出すのに時間がかかるでしょう。だからこうして人がたくさんいる時でないと、グリーンピース料理は作れないんです」とジョンソンさん。
ある日の夕食には、グリーンピース、タマネギ、豆乳だけで作ったスープが登場した。豆をふんだんに使うというその贅沢さに感動しながら、ひと口ひと口ゆっくりと味わった。豆の甘さと、夏の始まりを思わせるさわやかな香り。子どもの頃にこの味を知っていたら「グリーンピース大好き」と言っていただろうなあ。
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この農園で過ごす日々もあと6日。農園のシステムやライフスタイルについて書きたいことは山ほどあるのだが、毎日いろんな出来事があり、なかなか書けずにいる。今週は特に、夜はPowerPointで資料を作成するのに時間を費やしていた。
実は昨日、地元の小学校で日本のことを紹介する機会を得たのだ。小学生と一緒に給食を食べたり、先生方と少し話をしたりすることもできた。とても貴重な体験だったので、次回詳しく書きたいと思う。
今日は午前中にニンジンを収穫。午後からは智異山(ちりさん)へ行く。お寺で農作業を手伝い、お寺の食事を味わう予定だ。
▲エッセイ『韓国で農業体験 〜有機農家さんと暮らして〜』 順次公開中