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THE ALFEE デビュー47周年記念小説 今夜この歌の続きを

「東京都内なのにこんなに静かで近所にも迷惑のかからない場所があるんだな。空気も澄んでいて。マスクなんてもったいないくらいだよ。坂崎よく見つけたな?」

「昔の荒川村に似たような感じがする。前から知ってたの?ここ」

「な、いいだろ?」

三人はそれぞれの車を止めた後、辺りに誰かいないか確認しつつ、小声で会話を交わした。

「気持ちは変わってないよな」リーダーらしく高見沢が二人に言うと、坂崎と桜井は頷く。

坂崎は一人分の足元だけ照らすくらいの小さな懐中電灯をポケットから出して二人を先導した。
三人だけの真夜中の散歩。

空の漆黒はより深くなっていく。

風にそよぐ草の音が、開場前のファンの手拍子を思い出させる。

5日前に山羊座で一直線に並んだ月と木星と土星が、今夜も大聖堂の高い天井に書かれた絵のように輝いている。

天文学と占星術では同じでないのだが、山羊座は桜井の星座だ。

占星術上の今年の夏の木星と土星は軌道を逆行し、過去をもう一度連れてくる。
今、真っ直ぐな声のように前へだけ進むのは、高見沢と坂崎の牡羊座の支配星で、桜井が生まれた時に太陽の近くにいた火星である。火星は山羊座に居るときに一番力を発揮しやすい。

三人は適度なソーシャルディスタンスを取りながら円陣を作った。

いつもの歌い出す前と同じように、一斉に息を吸い込もうとした時、
「あっ、悪いけど、ちよっと待って。今思い付いたんだ。」
他に誰もいない周囲を気にしながら高見沢が控えめな声で言った。

「守ろうよ ソーシャルディスタンス って歌っている限り、コロナを警戒する世界のままだ。コロナが続く限り、それをずっと続けるのか?」

坂崎と桜井が頷く。

「ユングの集合的無意識というか、量子力学で言うところの自分の意識が現実を作っている、というか。つまりコロナだからライブが出来ないという俺たちの意識がその通りの現実を作ってないかって。もちろん、あくまでも仮にそうだとして、の話だけど。」

「つまり、もう新しい『星空のディスタンス』の歌詞が出来てるってことか?でも、いつものクセが出てるだけだぜ。一人で背負うなよ。」
気遣いながら桜井が言う。

「高見沢はここまで歩いてくる間にパラレルワールドに行って戻ってきたんじゃないの?アフター・コロナの世界に。隠居して盆栽を始める高見沢じゃないしな。」
もう半分予測がつくと言いたげに坂崎が続ける。

そんな三人の間を近づく秋の気配が流れてゆく。

「その新しい歌詞だけど」

高見沢の深い思想に坂崎も桜井も改めて感銘を受けた。
計らずして、高見沢はしばしば、他のメンバーやスタッフにはない特異な能力を現してしまう。

もう一度、三人は円陣を整え、体いっぱいに息を吸い込み、厳かに歌い始めた。三人だけにきこえる声で。

まだ、三人しか知らない、新しい「星空のディスタンス」の歌詞を。

ドラムがリズムを刻むように蛙が鳴き、気の早い鈴虫はキーボードを勤めるように羽を擦り合わせる。

何処から飛んできたのか、時期が過ぎたはずのゲンジホタルが、三人を囲むように優しい光を灯した。

真っ直ぐに
新しい世界を

その思いを、朝焼けに染まる前の空だけが観ていた。

2021年8月25日 47回目の生誕祭

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