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メイド服のタカミー 第六話

高い天井から月明かりのような電灯がメリーアンとその後を進む髙見澤を照す。
建物を囲む森に似た木製の壁と草色の毛足の長い絨毯。髙見澤の白い肌と彫りの深い顔つき、装飾の多いメイド服はこのゴシックな雰囲気にとても似合っていた。

ふと、有名な小説のタイトルにもなったビートルズの曲が髙見澤の頭に流れる。
Norwegian Wood、あの誤訳はノルウェーの森でもなくノルウェー製の家具でもなく、壁だか壁紙だかなのだとビートルズマニアの坂﨑が教えてくれたっけな。
今の俺にとって音楽や仲間は緊張から気を反らすための鎮痛剤なのだろうか。

メリーアンの姿が半透明に見えた。考え事をしていたからか?髙見澤がもう一度確認しようとした瞬間には元通りになっている。

思考が分断された髙見澤の手に冷たい何かが吹き付けられ、額に強い光が当たった。驚いて息が詰まった。
「さっきと同じ体験を繰り返しているのか?」

「ちゃんと説明するのを飛ばしちゃってたわ、ごめんなさい。お熱は36.7℃だから大丈夫ね。大丈夫だと思うけど消毒用アルコールはしっかり丁寧に手に刷り込んでくださいね。」

メリーアンは問いかけには答えなかった。
そのまま髙見澤が手に消毒液を刷り込むのを目視で確認しつつ、髙見澤の両手中指にはめられた大きな指輪と手首のブレスレットを分析した。

「これには変な機能はなさそうだわ。業務に支障が無ければ着けたままでもいいでしょう。炊事場では外してもらうけど。」

「えっ、何のこと?」髙見澤はそう言ってから、以前櫻井、坂﨑と一緒にかつ丼を作った時に櫻井から指輪を外せと言われたのを思い出し、メリーアンの言葉も同じ意味だと理解した。

メリーアンが開いたドアは普通の事務室のようだった。髙見澤はセキュリティの厳戒な入口を想像したので、普通の作りなのが意外だった。

ドアのこちらとあちらでは空気圧が違うはずがないのだがメリーアンの真っ直ぐな黒髪が放射線状にひろがり、応呼するように髙見澤の巻き髪がふわりと空中に踊る。

櫻井も坂﨑もいないひとりぼっちのPretenderで迷いの中にいる気持ちになった髙見澤は、ついメリーアンに声をかけたくなった。

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