メイド服のタカミー 第三話
髙見澤は、鍛え上げた太股に身につけたガーターベルトからワイヤーロープを取り出し、思い切り真上へ投げた。巨大な何かを押し潰したようなギヤァァーという音が空を割った。思ったとおり、キングギドラの声だ。
キングギドラは、巻き付いたワイヤーロープから逃れようと体を大きくよじり、しがみついた髙見澤に鋭い足の爪で攻撃し、三つの口は素早く入れ替わりながら牙を剥いた。
ギドラの羽ばたきで起きる風圧の中、煽られたスカートが体に張り付いて、捻れ曲がっては揺れるワイヤーロープをよじ登るのを邪魔する。硬いワイヤーロープが食い込んで手の皮が破けそうになるのを必死に耐え、ようやくキングギドラの背中にまたがった。視力の戻った瞳に、じっとりとした脂汗が額から流れ落ちた。
髙見澤は息を切らしながらキングギドラに命じた。
「屋敷の様子を知りたい。周りを飛んでくれ。」
もう抵抗するのは無駄と観念したのか、一度背中まで登られるとキングギドラは急におとなしくなり、言われた通り屋敷の周りをゆっくりと旋回し始めた。
既に空は暗くなっていた。夜露に濡れる森を抜けたところにある屋敷は窓に白いバルコニーが付いており、謎めいた美女が出てきそうな雰囲気だ。
二人組の夜警たちが周囲を見渡しながら歩いている。だか生気を感じない。
反対側から飛んでくる鳥の群れはラジコン機のような動き方をする。
屋敷の周りの森の先には道も無く、他の建物も見当たらない。
不自然といえば不自然で、やはり、外界との接触を絶って何かを秘密裏に行っていると、髙見澤は直感した。
俺はメイドとして潜入する。何の為だ?コロナを作り出しているヤツの正体を突き止め、解決策を持ち帰り、櫻井、坂﨑と一緒に音楽で地球を救う為だ。
冬の武道館が目標では、それまでに敵はより強力な変異株を作り出してしまうかもしれない。
今年の七月三十一日と八月一日に横濱アリーナで開催出来れば、音楽を通してコロナと戦う力を強められるはずだ。
「夜露、森、白いバルコニー…」櫻井の歌声が髙見澤の脳裏に甦った。
昨日六月二十日は櫻井の三十九回目の結婚記念日。今日六月二十一日はメリーアン発売三十八回記念日。
こんな大事な日を忘れるものか。櫻井よ、坂﨑よ、俺は必ず約束を果たす。
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