おつかいメモ
札幌から釧路へUターンして2ヶ月あまり。
父の体調もだいぶ落ち着いてきて、
最近は外でのひとり時間が叶っている。
昼前から夕方にかけて外出するとき、
あいだに1度父へ電話をする。
買い物やそのほかの用事を済ませる途中や、
読書や書き物や調べものの合間をぬって。
14時から15時あたりにアラームを設定し、
(そうしないと集中して忘れてしまう)
父のスマホを鳴らす。
ドーナツ屋さんにいることが多い。
朝昼夕晩、父はいつでも昼寝をする人で、
電話口に出るまでに時間がかかるので、
そのあいだに店の玄関フードへ移動する。
内容はいつもいっしょ。
「起きてた?」
「昼ごはん食べた?」
「薬のんだ?」
この3つがセットで、夏場は、
「暑くない?」 と、
「扇風機まわしてる?」 が追加される。
雨降ったら迎えに行くぞ。
父が気遣って言ってくれるのだけど、
ありがたく感謝を伝えるのだけど、
私は自転車で出かけている。
ときどきおつかいを頼まれる。
飲み物だったりプリンだったり、
お気に入りの飴だったり手羽先だったり、
最近デビューしたてのIQOSだったりする。
自慢じゃないが、
たったひとつだけのおつかいでも、
視界から消えると即忘れる自信がある。
席につくと手近な紙にメモするため、
トレーの上にあった白い紙ナプキンに、
赤い蛍光ペンでざざっと走り書いた。
……ダイイングメッセージ?
たばこに殺された、もしくは、
たばこで殺された、みたいな。
………たばこで、殺される?
……たばこで、…あんな小さな箱で……。
IQOSの箱はふつうのたばこよりも、
もっと薄くて小さい。
それが凶器に……。
いったいどんな殺害方法で………。
ふむふむ。
どこからかなにかが流れこんでくる。
きっとこんなちいさなキッカケだ。
なにもなかったはずのところから、
濡れた紙ナプキンのメモ書き1枚で、
想像が妄想へ、そして映像へ、
だんだん加速しながら色づきながら、
物語というのは生まれてくるのだろう。
ダイイングメッセージを眺めて、
ふとそんなことを思って、
あ、『科捜研の女』観に行かなきゃ、
とも思ったのだった。
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