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#小説 記事まとめ

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2022年11月の記事一覧

もったいないので

1年ほど前に「脚本−1グランプリ」というライブがございまして みんなが小説のようなものを書いて舞台で発表して小説の賞に応募しようってライブでございまして 応募してから半年ほどどこにも公開してはいけないというルールがございまして もうその期間が過ぎて晴れて自由になったわけでございまして 中々労力のいるライブだったのに箸にも棒にもかからなかった私の作品がございまして もったいないので見てもらおうというわけでございます 『まっくら』 真っ暗な道 ひたすら歩く 物心がつ

【小説】人魚の卵

 銀色に光る海を横目に、汐里はざくざくと砂を踏みしめ歩いていた。  彼女を先導するように揺れる尾の持ち主であるタカラは時折、汐里がきちんとついてきているか確かめるように振り向く。その度に汐里は三角耳の相棒に手を振ってやった。  冬の海は静かだ。海水浴目当ての客はもちろん、寒すぎてサーファーの姿もない。浜辺にあるのはひとりと一匹の並んだ足跡だけだ。  汐里は冬の海のほうが好きだった。ひと気のない浜辺は少し寂しいけれど、冷たい潮の香りと海風は気持ちがいい。  それに、タカラの

【ショートストーリー】俺は、孤独じゃない

「ほら、これおめえにやるよ。俺からの引っ越し祝い、渡してなかったからな」  そう言うと、里中さんは俺に向かって大きな白のレジ袋を手渡した。 「わざわざありがとうございます、師匠!」  礼を言いながら袋を受け取ると、里中さんは恥ずかしそうに顎を掻いた。 「おめえ、こないだも言ったけっど、師匠ってのはやめてくれねえか。恥ずかしいからよお」 「いえ、里中さんは俺にとってこの村での師匠ですから。そう呼ばせてくださいよ」  俺がそう言うと、里中さんは観念した、とでも言いたげ

本と付箋とメッセージ

彼はいつもひとりだ。 ぼんやりと車窓から外を眺めていることもあるが、大抵は本を読んでいる。 私が降りるひとつ前のバス停にある高校の制服。 毎朝、同じ車内で見かけるだけ。 ただそれだけなのに目が離せない。 先週、本を読み終えたのだろう。彼の持っているのは文庫本からハードカバーに変わっていた。 少し長めの前髪とメガネの下で伏し目がちに文字を追う長いまつ毛を盗み見ていることはきっと知られてはいない…はず。 毎朝15分だけ乗り合わせるバス。いつもなら何事もなく過ぎていくのだけれど、

短編小説「かたち」

愛について皆さんはどう思うだろうか。 僕は多様され使いこなしているようで、その実態を理解できて居ない人が多いと思う。 「愛とは」と多くの哲学者がうん百年に渡って語っている側から、恋愛本でも「愛される10の秘訣」、「自分を愛する方法」とかの切り口で、愛という壮大さを形付けるものが世の中に行き渡っている。そしてそれを熱心に探求する人間がいる。 僕はそんな愛を軽々しく口にしたことはない。なぜなら、それが真摯でもなく紳士らしくもないからだ。 感じたことも、実態が分からないから正

「あなたが海をくれた」(原作:童謡『海』)

 ピロン、と着信音が鳴る。  里江のスマホに、祥子からのメッセージ。  次の日曜日にお茶をしない?というお誘いだった。  当日の朝。 「ねぇ。何処のお店?」  里江は訊く。 「うふふ、秘密」  車のハンドルを握りながら、祥子は茶目っ気たっぷりに笑う。  祥子はこういうタイプだ。イベントやサプライズが好き。  インドア派の里江を外へ連れ出してくれる。  車を走らせること小一時間。 「あら、まぁ」 「あらまじゃないわ、ほら、そっちの椅子を持って」  祥子はトランクを開けるとア

【試し読み】怪獣8号 密着!第3部隊

『怪獣8号 密着!第3部隊』発売を記念して、本編冒頭の試し読みを公開させていただきます。 あらすじ それでは物語をお楽しみください。 オープニング  時刻は午後九時を回っていた。車もまばらになってきた目抜き通りの歩道を、大勢の若者が連れ立って歩いていた。一見すれば大学生の集団に見える。だが、注意深く観察すればその身体にはがっしりと筋肉が付き、男も女も一様に鍛え抜いていることがわかる。  立川基地第3部隊――ここ立川市に拠点を構える防衛隊の新人たちだ。彼らの多くは十代

発売目前! 一穂ミチ最新作『光のとこにいてね』第一章 先行無料公開

 2021年からお届けしてきた一穂ミチさんの連載『光のとこにいてね』がついに書籍化! 2022年11月7日(月)に発売になります。  連載からさらに推敲を重ね、単行本に向けて磨かれた『光のとこにいてね』の第一章をまるまるお届けします!  小瀧結珠と校倉果遠、7歳の時に運命の出会いを果たしたふたりの出会いをお楽しみください。 第一章 羽のところ○  月曜はピアノ、火曜はスイミング、木曜日は書道と英会話、金曜日はバレエ。習いごとのない水曜日は家で宿題をしてから通信教育のテキス