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#小説 記事まとめ

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2020年5月の記事一覧

夢の中で今日も、ごはん │ ショートショート

目が覚めると、野原の真ん中にいた。 屋外の筈なのに、何の音もしない。 ぐるりと辺りを見回すと、店が一軒。彼は迷わず歩き出した。 ここは、彼の夢の中なのだ。 彼は、いつも同じ夢を見る。 夢の中で、彼はまず野原にやってくる。 そして、この店に入るのだ。 暖簾の出た戸口の横の表札には、大きくこう書かれている。 『定食屋ササミ』。 この定食屋は、現実も夢も含めて、彼の唯一の行きつけの店であった。 「いらっしゃいませ。」 ササミさんは彼を見ると、にっこりした。 カウンターには既に一

編集者が考える「原稿のレベルを上げるためにできること」【ポプラ社小説新人賞への道】

こんにちは。 「ポプラ社小説新人賞への道」もいよいよ終盤。 今回は、知りたい人が一番多いであろうポイント…… 「どうやったら原稿の質があげられるか」についてです。 小説を書きあげたけど、そこからどうしたらいいのか分からない。 どうやったら「うまい小説」「面白い小説」にレベルアップするのか。 というか、小説ってどうやったら良くなるの? そんな悩みを抱えている人もいらっしゃるのではないでしょうか。 小説に正解はありません。 なので、「こうすれば絶対に良くなります!」とい

父の水曜日

父の水曜日 私にとっての水曜日は特別な日。 だって物心ついた時から、家族の行事は決まって水曜日だったから。 入学式や卒業式の人生の節目の行事も水曜日の時だけは来てくれた。 誕生日もクリスマスも、前倒しになろうと後ろ倒れになろうと全部水曜日。それは我家のルールだった。 だから私は幼いとき父の仕事は水曜が休みだと思っていた。 水曜の朝になると遊んでもらえるもんだと思って父に駆け寄ると、父はきちんと身支度をして家を出る。 どうやら水曜日も仕事はあるようだった。 不思議に思って

全力フィーカ(哲ロマ)

スウェーデンにはフィーカの習慣があるのだとカーラジオが言っていた。 フィーカとは何なのか、フィーカとは、まあ、ラジオから聞いた情報を自分なりにまとめてざっくり言うと、同僚、友人、恋人、家族とコーヒーやら紅茶やらを飲んだりパンやらお菓子やらを軽く食ったりして楽しむ事らしい。 どんなに忙しい仕事中であろうが10時と15時にフィーカをするらしい。 フィーカをしないと上司が怒るぐらいフィーカは大事らしい。 そんなフィーカを大事にするスウェーデンは労働生産性がすごく高いらしい。 ふ

火の山八 第一章 幽霊の世界「少女の部屋に少年の首が転がったこと」

 想念を変えれば、世界もまた同時に変わる。    マスターの言葉が僕の脳裏から離れなかった。水月と出会った瞬間から、徐々にではあるが僕の世界は確実に変わりつつある。今僕が属している世界は昨日のそれとは確かに異なっている。そして、僕の脳裏に取り憑いた光景も日々更新されていく。  ある日、再び火の山の夢を見た。冷たい炎に包まれて、懸命に手を差し伸べる少女の悲しみが僕の胸の中に入ってきた。  私の体、汚れているから、燃やすの。  少女は最後にそう言った。  少女は癇癪持ちだった。