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父の水曜日

父の水曜日

私にとっての水曜日は特別な日。
だって物心ついた時から、家族の行事は決まって水曜日だったから。
入学式や卒業式の人生の節目の行事も水曜日の時だけは来てくれた。
誕生日もクリスマスも、前倒しになろうと後ろ倒れになろうと全部水曜日。それは我家のルールだった。

だから私は幼いとき父の仕事は水曜が休みだと思っていた。
水曜の朝になると遊んでもらえるもんだと思って父に駆け寄ると、父はきちんと身支度をして家を出る。
どうやら水曜日も仕事はあるようだった。

不思議に思って私は父に聞いてみた。何度も。でも答えは決まって「内緒だよ。」だった。
私は母にも聞いてみた。でも答えは「聞くだけ時間の無駄よ。」だった。

不思議ではあったけど、なぜか不満ではなかった。

大学で出会った彼と結婚することになった。そう父に伝えると一つ条件を言い渡された。
「結婚式は水曜日にしてくれ。」私はおおよそ見当はついていたから、式の日取は祝日の水曜日に決めていた。

結婚式当日。来賓の挨拶は父の推薦した人にお願いした。その人は野球帽をかぶっていて、私の面識の無い人だった。

その人の第一声は「ニンニク入れますか?」父の友人の席だけがどっと沸いた。父は泣き笑いのような表情をしていた。

すると彼が私の耳元で囁く。「あれ二郎の店主だよ。義父さんはきっと二郎の定休日に全てのスケジュールを合わせていたんだね。」

「うん。本当はずっと知っていたの。」
「ところで君は何曜日?」

私は言った。
「内緒だよ。」

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