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【森がいく!!#1】デジタルアーカイブの可能性に思いを馳せる
はじめまして、文化情報部の森です。今回から僕が参加した学会や研究会の思い出を学会記としてマガジンでご紹介していきます(ジャンルは文学、デジタルアーカイブなど色々です)。「こんな研究があるんだなー」と気軽にお楽しみください。
はじめに
デジタルアーカイブとは、デジタル技術を用いて文化資源を保存、公開、活用していこうという考え方です。文化資源は、文化財だけでなく公文書や企業の資料、映像や舞台芸術など、有形無形問わず幅広い文化的資料を指しています。
近年は、国がデジタル田園都市国家構想を打ち出すなど、多くの分野でデジタル化が推進されており、文化財に関わる領域でも同じような傾向になっています。文化情報部のお客様には文化財を所有している自治体やMLA(博物館(museum)、図書館(library)、文書館(archives)をまとめて指す言葉)が多く、これらの施設でもデジタル化が求められる現状にあります。
文化情報部では、このような状況を踏まえデジタルアーカイブ学会に入会、研究会などに参加しデジタルアーカイブの最新動向と技術に関する情報収集をおこなっています。そこで今回は、金沢市で開催されたデジタルアーカイブ学会第8回研究大会のご紹介と参加報告をしたいと思います。
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1.デジタルアーカイブ学会って何?
デジタルアーカイブ学会とは、デジタルアーカイブ関係者による学術研究団体です。各人の経験と技術を交流・共有することで日本のデジタルアーカイブの発展を目指し、人材育成や技術研究の促進などに取り組んでいます。
学会というと教授など研究者が集まっているイメージがあるかもしれませんが、会員はデジタルアーカイブの研究者だけではありません。
図書館や博物館、資料館といった何らかの資料を所蔵している施設の関係者も所属しています。さらには、出版関連会社や映像などのコンテンツ制作会社など文化資源を生成している企業、著作権や肖像権など資料の権利関係について考えている弁護士など、産学官問わずデジタルアーカイブに関心をもつ多くの人々が加入しています。
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2.会場は驚きの空間
デジタルアーカイブ第8回研究大会の開催地は金沢、開催期間は2023年11月10日(金)から12日(日)でした。会場の石川県立図書館(愛称:百万石ビブリオバウム)は2022年7月にオープンした施設で、館内は従来の図書館イメージを覆す驚きの空間が広がっていました。
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円形劇場を思わせる大閲覧空間・グレートホールには囲むように本が並び、単純な図書配列ではなくテーマ別の書架が広がっています。
美しい空間だけでなく、石川県の文化や関連書籍を紹介するタッチパネルも設置されており、本との出会いを楽しむ素晴らしいアーカイブ施設だと言えます。(金沢に観光に来られた際は、この石川県立図書館にも足を運ぶことをおすすめします!!)
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ここで、1日目は各部屋に分かれ研究発表と企画セッションが、2日目は金沢駅前の石川県立音楽堂交流ホールで記念座談会や学会授賞式などがおこなわれ、3日目にはテーマに沿って専門家に解説してもらいながら金沢市内を巡るエクスカーションが実施されました。
3.デジタルアーカイブの今を知る
では、学会の内容についてご紹介していきましょう(詳しいプログラムについては公式HPをご参照ください )。研究発表では各部屋に分かれ、およそ30もの発表がおこなわれました。
発表は、現在のデジタルアーカイブが抱える課題を考えたもの、デジタルアーカイブの実践報告、よりデジタルアーカイブを利用しやすくするための最新技術の提案など、デジタルアーカイブが直面している様々な課題や取り組み、未来への可能性などが議論されました。まさに、デジタルアーカイブの今を知ることができる場でした。
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例えば「画像とメタデータの類似性に基づく資料探索支援システムの構築」(田中駿平、公立はこだて未来大学大学院システム情報科学研究科 )は、何か画像を探したいと思った時に(花を持った女性を描いたポスターを探したい、など)、検索すると類似したデザインの画像も提示してくれる支援システムに関する発表。
「東京大学総合図書館所蔵 サンスクリット写本 DBの構築:IIIFとTEIに準拠したワークフローの効率化について 」(永崎研宣、一般財団法人人文情報学研究所、)は、サンスクリット写本をIIIFという国際的な画像規格と、TEIという人文学系の資料をテキスト化する際のガイドラインに沿って実施されたデータベース構築の報告。
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いずれも「こんな技術があるのか」「こんな取り組みが進んでいたのか」と魅力的で興味関心をそそられるものばかりでした。文化情報部の今後の戦略を考える上でも有意義だったと思います。
4.課題を共に考える場
研究発表の他には、企画セッションが組まれていました。これはテーマ別に講演を聞き、討論を交わすものです。私が参加した「デジタルコンテンツ活用のために必要な人材をどう育てるか-石川県を事例として」では、デジタルアーカイブに精通した人材をどう育てるかについて、求められる能力、制度の在り方、意識の問題など、様々な角度から討論されました。
企画セッションは2日目も続きます。私が参加したのは「石川県が拓く新しい情報社会~DAとAIが実現する次世代DX」。石川県が平成8年から27年の20年間「石川新情報書府」というデジタルアーカイブとしては稀な長期間にわたる取り組みの紹介と成功した背景について、また、今後進めていく次世代DX推進への展望が語られました。
生成AIを活用した「デジヒロシ」や、よりリアルタイムに観光の動向を把握するための観光データ分析プラットフォーム「Milli」が紹介され石川県のデジタルデータ活用が国内でも最先端であることを強く感じました。
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5.石川県と金沢市の歴史と文化を学ぶ
2日目の午後は記念座談会です。「石川県の成長戦略―文化芸術と科学技術、そしてデジタルアーカイブの役割」と題し、石川県知事の馳浩氏もご登壇し、石川県がおこなってきたデジタルアーカイブの取り組みと意義について和やかながら活発な会話が交わされていました。
その後は学会賞授賞式(受賞者と授賞理由はこちらをご覧ください )、閉会式と続き、2日目が終了しました。
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さて、3日目はエクスカーションです。耳慣れない言葉かもしれませんが、日本語では「遊覧旅行」「視察旅行」と訳されるもので、説明を聞きながら現地を周遊するという「体験型の見学会」のことです。
立冬を過ぎ寒さも徐々に増している金沢は、あいにくの雨だったこともあり一層の寒さが感じられましたが、金沢市街地は多くの観光客で賑わっていました。そんな中、解説を聞きながら「金沢学生のまち市民交流館」を出発し「長町武家屋敷跡」等を散策、「金沢町家情報館」を見学しました。
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町中を歩いていると感じるのは、町家などの和風建物やレトロなビル、最新の建物が混在していることです。戦災を免れたことに加え、数々の条例によって歴史的な建物が保護されてきたこと、それがこの町並みにつながっているとのことでした。
時代時代で積み重なり層をなしているが故に感じることができるこの風景は、まさに都市のアーカイブです。
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おわりに
これですべての日程が終了しました。今回のデジタルアーカイブ学会体験記、思いのままに綴ってしまいましたが、一つ言えることは、非常に充実した貴重な3日間だったということです。それは、単に仕事のための情報収集ができたということだけではありません。
「はじめに」に書いたようにデジタル化は国が進める施策であり今後さらに重要視されることでしょう。全国で多くの方たちがデジタルアーカイブの未来について考えていると知れたことは、何より心強いことです。そして、金沢の町を巡り文化財や地域のデジタル化、アーカイブ化を体験することができました。
今回学んだこと、体験したことを活かし、より良いデジタルアーカイブを皆様にご提案できるよう励んでいきたいと思います。