【日本の伝統芸能を後世に残したい】茂山千五郎家所蔵資料デジタルアーカイブ事業②~デジタル化~
前回は茂山千五郎家所蔵資料デジタルアーカイブ事業の概要をご説明しました。ここからは、実際に、どのような作業を行ったのか具体的に紹介していきます。今回はデジタル化です。
1.デジタル化の必要性
デジタル化対象は2種類あり、一つ目は1998年から2009年にCS京都チャンネルにて放映された茂山狂言舞台映像を収録した120本のテープです。テープは、Digital BETACAM(デジタルベータカム)という、テレビ放送および映像制作用のデジタルVTR規格でした。テープの大きさは、27.1㎝x 16.2㎝と、一般的な、VHSテープに比べて一回り大きいサイズです。ベータカムは、当時の放送業界では一般的に使用されていたものでしたが、現在では、再生できる機器が少なくなってきており、また磁気テープは一般的に保管状態にもよりますが、寿命が20〜30年と言われており、経年により劣化が進行していきます。機器の流通状況やテープの寿命を考慮すると、今がデジタル化すべきタイミングでした。
2.舞台映像のデジタル化
デジタル化は下記の手順で実施しました。
①テープの状態チェック
②再生機器での映像と音声の確認
③再生機器から、PCへ専用機器で変換
①では、外観や、テープ面をチェックし、カビやほこりが無いかを目視で確認します。この段階で、カビが認められる場合は、無水エタノールをコットンに塗布して除去します。今回は、比較的状態の良いテープが多く、清掃は少なく済みました。
状態をチェックした後は、②再生機器で音声と、映像が正しく再生できるかをチェックします。テープの再生には、ベータカムを再生するための専用の機器を使用しました。大きさは、一般的なビデオデッキの2倍くらいの大きさがあります。
そして作業のメイン、③がデジタル化です。再生機器からは、SDIケーブルを使用してPCに接続します。SDIケーブルは、放送用ハイビジョンデジタルVTRで多く採用されている信号規格であるSDI信号を伝送するケーブルです。デジタル映像とデジタル音声をケーブル1本で伝送することができます。映像資料を、MOV形式の一般的なPCで再生可能な形式に変換を行いました。
テープは120本と大量だったため、デジタル化には再生機器を2台使用し、約3ヶ月かけて実施しました。
3.台本資料を継承していくために
デジタル化対象の二つ目は、狂言台本に関する資料です。対象資料は前回ご紹介したように、
の4種21冊です。資料は狂言ごとに台詞が記載された台本ですが、それだけでなく舞台での動き方、謡い方、道具の種類など、狂言を演じる上で重要な情報も記されています。
茂山千五郎家に代々伝えられてきたこれらの資料は、江戸時代から近代にかけて書かれたもので貴重な資料ですが、経年のため劣化している部分もあり、日常的に読むには支障がありました。また、近年多発している自然災害の被害に遭ってしまった場合、火事などで資料が永遠に失われてしまう懸念もあります。後世に資料を保存・継承していくためにも、デジタル化が必要でした。
4.台本資料のデジタル化
作業は、資料を傷めないよう細心の注意を払って行いました。撮影では、資料への影響を最小限にするために本を一度解体し、一枚一枚紙を開いた状態で行いました。本の状態で撮影すると、ノド(本の中央、綴じられている部分)近くの文字が隠れてしまうため、無理に開いて本を傷めないための対応です。
撮影に使用したのは、1 億 200 万画素の高精細デジタルカメラです。 高精細のカメラでデジタル化したことで、資料の細かな文字も判別でき、拡大してもストレスなく読むことが出来ます。また、今回の撮影に当たっては和本など歴史的な資料の撮影専用の治具を使用しました。ガラス面は無反射ガラスとなっており、資料にかかる負荷を最小限にしながら平滑に撮影することができます。
デジタル化した画像は、閲覧に適したPDF形式に変換しました。撮影は数千カットにも及び、撮影や編集なども含めデジタル化は約2ヶ月の作業期間でした。
※各資料のカット数は以下です。
デジタル化の紹介は以上です。デジタル化したことで動画や画像はノートパソコンなどでも気軽に見ることが出来るようになりました。今回デジタル化したデータを、ぜひ狂言のために活用していただけたらと思います。
次回は、資料の修復作業をご紹介します。