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【日本の伝統芸能を後世に残したい】茂山千五郎家所蔵資料デジタルアーカイブ事業①~業務の経緯~

はじめに

 狂言は、中世から続く日本の伝統芸能で、「能」と「狂言」合わせて「能楽」と呼ばれています。能が謡や舞によって悲しみや怒り、恋慕などを表現するのに対し、狂言は「笑い」を通して人々を描く喜劇です。2001年には、ユネスコにより「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」と宣言されました。

狂言「靭猿」(画像提供:茂山狂言会)

 そのような世界的に評価されている狂言を現代に受け継いでいるのが茂山千五郎家です。この度、茂山千五郎家が所蔵している貴重な狂言に関する資料や記録映像のデジタルアーカイブ化を、ナカシャクリエイテブがお手伝いさせていただきました。資料の修復やデジタル化、翻刻など多岐にわたった茂山千五郎家所蔵狂言資料デジタルアーカイブ業務について、数回に分けてご紹介していきたいと思います。

1.狂言の名門、茂山千五郎家

 茂山千五郎家は江戸時代初期から続く狂言大蔵流の名門です。京都を拠点として活躍しており、江戸時代末期には井伊直弼公の庇護を受けて彦根藩に抱えられたこともあります。明治時代の混乱期には途絶えてしまった能楽家も多くありましたが、茂山千五郎家は京都の人々に支えられ、戦前戦後と狂言を守り続けてきました。
 戦後、昭和25年頃からは全国の学校での狂言上演など普及活動を行うことで、第一次狂言ブームへとつながりました。平成の時代になると第二次狂言ブームが起こり、この時も、茂山千五郎家では上演や様々な企画を積極的に行なっていました。

2.茂山千五郎家に伝わる資料・記録映像

 今回、デジタルアーカイブ化の御依頼を受けたのは、前述の第二次狂言ブーム時、1998年から2009年にCS京都チャンネルにて放映された舞台映像と、長い歴史を持つ茂山千五郎家で伝えられてきた狂言台本に関する資料です。
 舞台映像は「デジタルベータカム」で撮影されているため、現代では再生機器自体をほとんど見かけません。再生機器が市場から無くなってしまっては貴重な映像を見ることが出来なくなってしまいます。

今ではほとんど目にすることがないデジタルベータカム

 狂言台本に関する資料は、「大蔵流六義 真一本」、「大蔵流六義 虎寛本写 正乕蔵」、「秘書」、「間語書」および「間の書」という4種類の資料が対象でした。いずれも狂言の演目について書かれており、台詞や謡の節、動作についても記されている貴重な書です。ただ、長い間読まれ続けてきたことで、紙の破れなど痛みが生じていました。 

正乕本の「脇狂言之部」
台本ですが様々な書き込みがあります

 また、近年は地震などの災害が度々発生しています。万が一、被災してしまった時に貴重な資料が失われてしまわないように、といった様々な課題を解決し、後世に貴重な資料を引き継いでいくため、デジタルアーカイブ化を実施することとなりました。

3.クラウドファンディングによる全国からの支援

 今回の業務に当たって、一般社団法人 茂山狂言会ではデジタルアーカイブ化のためのクラウドファンディングを実施されていました。狂言の貴重な資料を後世に残していきたいという想いは共感を呼び、広がった支援の輪によって、最終的におよそ1,800万近くの支援金が集まったそうです。

クラウドファンディングページ

4.デジタルアーカイブの概要

 それでは、業務の概要をご紹介します。今回は、①デジタルベータカムテープからデジタルデータへの変換および資料のデジタル化(撮影)、②資料のうち「秘書」の翻刻、③傷んだ資料の修復を実施しました。

①デジタル化
・茂山狂言舞台映像デジタルベータカムテープ120本
・「大蔵流六義 真一本」(脇狂言、大名狂言、小名狂言、聟女狂言、鬼山伏狂言、出家座頭狂言、集狂言、小習狂言、大習狂言)
・「大蔵流六義 虎寛本写 正乕蔵」(脇狂言之部(イ)、聟女之部(ロ)、大名之部(ハ)、小名狂言(ニ)、出家座頭部(ホ)、集狂言(ト))
・「秘書」
・「間語書」、「間の書」(間の書春、間の書夏、間の書秋、間の書冬)
②翻刻
・「秘書」
③修復
・「大蔵流六義 真一本」
・「大蔵流六義 虎寛本写 正乕蔵」

 次回からは、それぞれの業務でどのような作業を実施したのか、具体的にご説明していきます。


【参考文献】

お豆腐狂言 茂山千五郎家HP
狂言の至宝を後世へ|茂山千五郎家の最重要資料をデジタルアーカイブに
能楽協会HP
文化デジタルライブラリーHP
・茂山千之丞「よみがえる「言魂」」(第31回日本コミュニケーション障害学会学術講演会 特別講演、『コミュニケーション障害学』22 -3、2005)