「あなたが将来やりたいこと」
「叶えたい夢」
これらをテーマにした作品を作りなさい。
夏休みの宿題を机に放り投げ、
そのままベッドに転がり込んだ。
やりたいこと?将来の夢?
よく聞かれるけど、そんなことわからない。
だって自分になにができるかわからない。
好きなことはあるよ。絵を描くこと。
でも1番になって賞をもらったことはないし、
眠るのが惜しいくらい夢中になれるわけでも、
みんなからすごい!って言われたこともない。
「得意なことや好きなことをやってみたら?」
って言われても、特別な才能なんか見当たらない。
いきなり、なんなんだ?
もしかして、夢の中にいるのかな。
夢で宿題のネタが見つけられたらラッキーかも!
そう言われても、急には考えられないよ。
特に「得意なこと」って探すのが難しいし。
そうか。もしかしたら気持ちを言葉にしたり、
分かりやすい言葉で伝えるのが得意なのかも・・・・。
ちょっとだけ、分かってきたかも。
「好きなことは絵を描くこと。
得意なことは、絵の色付け。
手紙の書き方や教えるのが上手って
言われたこともある。
大事にしてるのは、最後まで諦めないこと」
絵を描くことのなにが好きって・・・・
えーっと、そうだ。
不思議なんだけど、ライオンを描いてると
すごく強くなった気持ちになれるし、
笑ってる人を描くとこっちまで笑顔になったり。
いろんな気持ちになれるのが楽しい。
「得意なことは色付け」。
この色とこの色を混ぜたら良いかもって、
すぐに頭に浮かぶんだ。
大事にしてることは「最後まで諦めない」。
途中でやめちゃったら苦手なままだけど、
続けてたら変わるかも、って思うから。
・・・・こんなことを考えてなんになるの?
じゃあ「絵を描くこと」と同じように、
「いろいろな気持ちになれること」なら、
好きになれるかもしれないってこと?
そうすれば宿題の「夢ややりたいことが見つかる」
っていう話?
「夢を描け!!夢を叶えよう!!」とか言わないんだ。
ちょっとガッカリっていうか、ううん。
ほんとはホッとしたかな。
特別な才能や没頭できるもの、
夢ややりたいことがない自分のこと、
ずっと引け目に感じてたから。
1番になって賞をもらったことはなくても、
眠るのが惜しいくらい夢中になれなくても、
みんなからすごい!って言われなくても、
自分が楽しい気持ちや元気になれるものを
知っていることは、大きな力になるんだね。
ねえ、また会える?
また、お話を聞かせてくれる?
起き上がるとすぐに画用紙にペンを走らせた。
タイトルは
「13歳からの、自己理解ってなんだろう?」
やりたいことも夢もないひとりの少年が、
夏休みのある日、不思議な夢を見る。
「もしかしたら気持ちを言葉にしたり、
分かりやすい言葉で伝えるのが得意なのかも」
と気づいた少年は、自分と同じように自分に
自信を持てずにいる人たちに向けた
メッセージを絵本に綴り・・・・・・
おっと、これ以上はまだ秘密。
あなたの笑顔を想像しながら描くよ。
絵本が完成したら、また会おうね。
(おしまい)