理解されない孤独に付け込まれたとき(ジョーカー2を観て)
孤独の意味とそこに落ちた人間について考えた話。
#ネタバレ を含みます。まだ見ていない人は気を付けて読んでください。
見てきました。ジョーカー・フォリ・ア・ドゥ。
ただの感想では面白くないので、この映画に潜んでいる本質をひとつ紐解いて残しておきます。
この映画はアメリカ公開直後から賛否両論分かれる評価で話題になっていました。
前作がすごかったのでそれに比べて低評価なのか、単なる期待された内容と違ったからがっかりだったのか。これは確かめなければ。
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結論から。
この映画はジョーカー1とは描かれるフォーカスが違いました。
話の最初にアーサーが刑務所の休憩所でそれとなく歌い始めたときに気づきました。
これはミュージカル映画ですね、そして
という疑問が最後まで消えることはないだろうと感じました。なので、観る視点をミュージカル映画に切り替えました。
ミュージカル映画を見るときは、ストーリーに固執すると隠れたメッセージを見失ってしまうんよね。だからこの際ジョーカー1の前置きは全部忘れて、何もしらない体で観ることにしました。
そうすると不思議ですね。
ジョーカーの映画を見に行ったのに、ミュージカル映画の中のジョーカーを見ている視点に立てました。これは自分が期待していなかったストーリーの映画だと気づいたときにその後を楽しむために有効なテクニックのひとつ。
最初にアーサーが歌った歌が Stevie Wonder の For Once In My Life だったんです。歌にスローインしてかなりのアレンジを加えられたこの曲。アーサーのそのシーンに見入ってしまって(映像がとてもきれかった)、知ってるはずのこの曲を「どこかで書き下ろされた曲」と思い込んでしまっていた。
それくらい感情の場面移入できる出来は完璧でした。それに加えて For Once In My Life のアレンジもよい。なによりアーサーの表情がたまらない。
ジョーカー1は、アーサーが孤独の泥沼にはまっていって抜け出せなくなりジョーカーとして覚醒するまでを描いていた。ジョーカー2では、ジョーカーとして覚醒したはずのアーサーが自分が演じていたジョーカーは「周囲からの期待」に過ぎないと悟ったときに再びもっと深い孤独に落ち、そこから這い上がれる唯一の希望だったリーにも捨てられて、もはや救いようのない孤独になってしまったことを描いている。
ジョーカー1も2もアーサーの孤独を描いていることには変わりない。ただ表現の形式が1と2では正反対になっていたため評価が割れたのでしょう。
レディ・ガガもこの映画には適役でした。1には出さず2に登場させるとは制作側の意図が大ありです。
彼女の妖艶な眼力と表情は、アーサーのどこかにまだ残っている少ない純粋な心の部分を揺さぶるには十分だったみたい。もともと歌手だし劇中歌もミュージカル劇もうまくこなしていたし、演技力がどうとうかは置いといていい(笑)。映画のところどころでアーサーを見つめる眼差しがとても妖艶で狂気でどこかもの哀しい。哀しさって人間が感じるわかりにくい感情なのかもね。
で、アーサーの孤独についてもう一段階掘り下げる。
彼の孤独感からくる症状は、幼少期からの周囲の環境がそうさせてきたと映画の中では描かれている。彼自身はそれを十分承知しているし実際に疾患も持っている。そんな彼が孤独を抜け出して作り上げたジョーカーの存在を引き剝がされる裁判(英語ではTrialという)で、傍聴人や、裁判でショーは許さないという裁判長ですらジョーカーとしての被告人のふるまいをどこかで期待しているという流れに、アーサーはそれに徐々に耐え切れずに一皮一皮ジョーカーが引っ剥がされていく。
この段階でのアーサーの孤独感ってどんなものだったろう。
自らが持っているものを引っ剥がされていく感覚、これは経験した人には十分伝わるしんどいことだけど、未経験の人にはただのエンタテイメントに移るんだろうか。
話の最後でアーサーが受けてしまう報い。これはここでは書かないけど私としては衝撃的で、この後の新たなジョーカーが生まれるのか?という感まで発展してしまいました。
ここまで振り返ってみて、制作側がなぜこのミュージカル仕様に仕立てたか。わかった気がします。ジョーカー1でアーサーが陥った孤独感の表現を超えるには、あえて明るいミュージカル調にするしか手段は残っていなかったのではないか(ジョーカー1がそれくらい表現しつくしていた)。
救いようのないことを表現することにあえて明るい音楽を用いる。映画界の鬼才がまれに用いる高等テクニックを使わざるを得ないくらい、前作であるジョーカー1を超えるものにしたい、という制作陣の心意気が感じ取れました。
まだ見ていない人は、この救いようのない映画、でも誰しもが陥る孤独とはなにかについてどう考えるか?の鬼門を開けたい方はぜひ、ジョーカー2を見に行ってみてください。できればジョーカー1を見たあとで。
noteもいろいな方がジョーカー2について書かれています。これを書いた後に調べてみましたが興味深かった記事もあわせて紹介させていただきます。
それともともに劇中で流れていた秀逸なアレンジの曲たち。これも載せておきます。個人的にはレディ・ガガがアーサーとの面会時に歌う Close To Youがたまらなく心に響きました。
そしてやっぱり、他人に理解されない孤独にいろんな角度から突っ込まれたときは、もう自己受容しか救いはないのかもしれませんね。ちょうどそれは確実な死を前にした状況と似ているのかもしれません。
でも今の私では、まだそれには抗いたいと思っています。
【挿入歌】
👇Lady Gaga: That's Entertainment
👇Joker: Folie à Deux - 'That's Entertainment!'
👇Joaquin Phoenix - For Once In My Life (Lyrics) (From Joker: Folie à Deux)
👇Lady Gaga, Joaquin Phoenix - Gonna Build a Mountain (Lyrics) (From Joker: Folie à Deux)
👇Lady Gaga, Joaquin Phoenix - (They Long To be) Close To You (Lyrics) (From Joker: Folie à Deux)
【参考】