『最初の悪い男』 ミランダ・ジュライ 複雑で不思議で寛容な世界
小説家、映画監督、脚本家、女優などマルチアーチストとして活動するミランダ・ジュライ。本書『最初の悪い男』は、自身初の長編小説です。
監督・脚本・出演の映画『ザ・フューチャー』で見せた独特でシュールな世界観。その中でリアルな30代女性を描いたミランダが本書で描くのは43歳独身のシェリル。独自の「システム」で生きる、ちょっとイタいシェリルの「自分らしく生きる姿」をとおして見えてくる世界とはー。
『最初の悪い男』の内容紹介
自分の「システム」で生きるシェリル
女性の生き方が話題になることが多い昨今。性別によって「生き方」を無意識に抑圧してきた社会と、その中心に居座る男性に対し「そうじゃない」と声をあげる動きを目にする機会が増えました。
が、フェミニズム、フェミニストというと、感情的で男性に対する敵意をむき出しにする姿ばかりがクローズアップされ「怖い」と思われることも。
この本の主人公シェリルは、こうした「作られたフェミニスト像」とはまったく異質な存在です。自分の世界を作りあげ、「システム」と呼ぶいわゆるマイルールの中で合理的かつ怠惰に生活と感情をコントロールしながら生きています。そこに生じる他人との齟齬もなんのその。都合のいい妄想で年上男性との恋愛気分も味わっています。
だいぶ拗らせているシェリルですが、部分的にみれば「こんな人いるよな」「自分もこんなことしているかも」と思えるところもあって愛おしく思えてきます。
で、そんなシェリルの生活が、20歳の足の臭い不衛生な巨乳美人( ←このキャラ設定がスゴイ)クリーとの同居によって激変しー。
評)「自分らしく生きること」に寛容な世界
何が起こるか、もさることながら、その変化に対するシェリルの対応が見もの。思い通りにならない相手や世の中に対し「そうじゃない」と声をあげるわけでもなく、あくまでも自分のスタイルで戦うシェリル。
物語は既成概念としての「女性らしさ」とか「40代らしさ」ということを超越しながら、性や暴力、子育てといった問題も絡ませて、一見、非現実なストーリーの中に普遍的な愛し愛される思いを描いていきます。
ものすごくヘンな世界なのに、ものすごくリアル。
私たちが生きている世界は、複雑で不思議で、私たちが思う以上に「自分らしく生きること」に寛容にできているのかもしれない。そんな愛を感じる1冊です。
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