尊敬リスイン保留中 映画『ワレサ 連帯の男』 積みDVD鑑賞③
2024年11月20日
昔、ある先輩と尊敬する人云々という話をしたときに「その人はまだ生きてるから言うことが変わるかもしれん。評価も変わる。死ぬのを待て」と言われた。
たしかに晩節を汚しまくる人も多いし、死後に悪行が暴かれることもあるし、大昔の人だって現代の価値観によって評価が変わり偉人から陥落することだってある。
死後どれくらい待てば安心して「尊敬する人」にリスインしていいのだろう?
映画『ワレサ 連帯の男』(2013年)
1980年代初頭のポーランドで自由のために立ち上がった男レフ・ワレサ。
一介の電気工から労働組合「連帯」を組織し初代委員長となり、武力鎮圧しようとする政府と闘い、何度も拘束されたり、「経済が無茶苦茶になったのはお前のせいだ!」と味方のはずの民衆に文句言われたりしたもののノーベル平和賞を受賞し、民主化の道筋を立てた。映画で描かれるのはこのあたりまでだけど、やがてポーランドの大統領になった。これは尊敬しかない。
が、まだご存命のワレサ氏。母国語読みに準じてヴァウェンサになったらしいが、変わったのは名前の表記だけだろうか?もしかして晩節を汚してはいないだろうか。
そんな余計な心配の前に映画の話を。
この映画を撮ったのはアンジェイ・ワイダ監督。
ポーランドを代表する映画監督で『灰とダイヤモンド』(1958年)や『カティンの森』(2007年)など社会派映画を撮り続けた監督。ちなみに2016年にお亡くなりになっている。たぶん尊敬して大丈夫なお人。
そんなワイダ監督がこの映画で描くワレサは、民主化運動のヒーローというよりも、現場たたき上げおじさん。6人の子どもがいて、ただでさえてんやわんやな奥さんに心配かけたり迷惑かけたりする普通の人だ。イタリアの女性ジャーナリスト相手のインタビューでは「本なんて5ページも読めん。でも5分で決断はできる!」と豪語。敬虔なキリスト教徒で本来の意味での反知性主義。言ってることはあくまでも現実路線で、賃上げ、組合設立、交渉、ストライキ権の確保など、労働者の暮らしをよりよいものに変えていこうとした。素晴らしい。今、同じような路線で議席を大幅に増やし注目を集めた国民民主党を彷彿させる。が、労働者ではなく官僚出身の党首が早々にやらかしてしまった。残念。
映画はそんなワレサを映し出す一方、実写やドキュメンタリー風映像を加えながら、崩れゆく社会主義国家の姿を映し出している。全編に流れるポップなのにどこか悲し気なポーランドのロックミュージックもたまらん。いい映画だった。
ワレサは民主化にこぎつけたものの混乱の続くポーランドで1990年に大統領に就任。95年の再選に敗れ2000年に政界を引退した。ご本人はもちろん否定しているが、共産主義社会のスパイだったという疑惑も。ホントなんだろうか? 「尊敬する人」のリスインは保留か。
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