もっと個人的で根源的な困りごととの闘い 映画『WANDA ワンダ』
2024年10月27日
このキービジュアル、しかも1970年代もの。絶対に好きなヤツなのに何で今まで全く知らなかったんだろ?と思ったら、この映画、長ーいこと「忘れられた小さな傑作」と言われ、ホントに隠れていたらしい。あのイザベル・ユペールほか、いろんな人のいろんな尽力(ザックリでスマン)があって日本での劇場公開は2022年。それが今(2024年10月現在)アマプラで見ることができるという幸運。
ストーリーは、アメリカ、ペンシルバニア州の炭鉱の町で暮らす主婦ワンダが家を追い出され、持ち金も奪われ、偶然知り合った粗暴な男について行き、いつしか犯罪の片棒を担ぐことにー、というアイタタな話。
監督、脚本、主演のバーバラ・ローデン自身を投影したといわれるワンダの「闘わない」姿が今、フェミニズムとして注目されている。
フェミニズム的な見方はさておき、まずは頭のカーラー。
私はギリ実態(頭にカーラーを巻いてネットやケープを被る)を目撃した世代だけど、あれは結構大変。だからワンダはオシャレには気を使うけれど、他がちょっとダメな女性なのかな、と思ったら、ちょっとどころじゃなかった。
子育てができず離婚を申し立てられ裁判に。その裁判にも大遅刻。お針子の仕事も作業に時間がかかり過ぎて解雇。わずかな所持金も奪われてしまい―。で、いつの間にかカーラーの外れた髪は頭頂部でポニーテールに。無造作ヘアと言えなくもないけれど。その後一人の男と出会って、なんやかんやあって帽子を買ってもらうんだけど、そ、それ?! いや、カワイイんだけど、似合ってるんだけど、それ?
ワンダ、アンタってどういう人なのよ??
この作品に限らず映画やドラマに描かれるダメな男性はバリエーションに富んでいて、必ずしも女性絡みとは限らない。一方女性のほうは「男運が悪い」とか「男を見る目がない」とかそのダメさっぷりをいちいち男性に結び付けられる。「男に縁が無い」というのもある意味男絡み。
こうした男性中心社会の価値観に縛られてしまう女性を解放するために女性自身も闘おう!というフェミニズム映画はたくさんある。が、この『WANDA ワンダ』はかなり異質。身勝手な男たちに痛い目に合わせられるけれど、それと闘うわけでもなく、嘆くわけでもない。ずっと困った顔をしているけれど、絶望感を感じているふうでもない。
男性中心社会? 何それ? そんなのどうでもいい。「正解」なんてないのわかってるから。ただ目の前の今、今をなんとかしたいだけ。
と言ってるように思えた。トンチキに見えたカーラー頭も帽子もワンダの今、なのだ。男や男社会と闘ってる場合じゃない。もっと個人的で根源的な困りごとにワンダなりに闘っているのだろう。
ローデン自身が影響を受けたというゴダールの『勝手にしやがれ』にも似たこじゃれ具合。見ている間、アメリカ映画であることを忘れそうになる。
バーバラ・ローデンは長編映画はコレ1本しか撮っておらず、48歳で乳がんで死去。長回し(冒頭の炭鉱を歩くワンダ、長いよ)即興演出、ゲリラ的撮影など、1970年当時の「非主流」が放つ個人的で根源的な困りごととの闘い。 やっぱり好きなヤツだった。