27.山雷頤(さんらいい)~養生と養育②
六十四卦の二十七番目、山雷頤の爻辞です。
卦辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n8d0807697dc7
主爻
主爻は、上九です。初九と上九が養う立場にありますが、初九は未熟であるため、上九が能力を発揮して天下を一身に背負い養うのです。
初九
爾(なんじ)の霊亀(れいき)を舎(す)て、我を観て頤(おとがい)を朶(た)る。凶。
象に曰く、我を観て頤を朶るとは、亦た貴ぶに足らざるなり。
自身の有する宝物を捨て、高貴なる者の有する宝物を物欲しげにだらしない顔付きで眺める。凶。
霊亀とは神妙不可思議なる霊力を持った亀であり、卜占において使用されるもの。そして頤の卦は離卦の似象であり、亀は離卦の象です。ここでは初九が本来有する能力を喩えます。我とは、初九自身であると考えると意味が通じませんので、上九が初九に向けて爻辞を発しているものと解釈します。つまり初九は微賤ではありますが陽剛にして正位、高い能力を有しているにも関わらず、それを自覚して磨き上げることを怠り、同じ陽爻である上九を羨ましいと妬んでいるのであり、恥ずべきことです。
六二
顛(さかさま)に頤(やしな)はる。經(つね)に拂(もと)る。丘に干(おい)て頤はれんとし、征けば凶。
象に曰く、六二の征けば凶とは、行けば類(るい)を失ふなり。
微賤なる同類に養われる。これは常道を外れたことである。しかし同類を離れて高貴なる者に養われようとして行くのは凶である。
頤の卦において養う立場は初九と上九であり、六二は初九と比しておりますので、高貴なる者が微賤なる者に養われる関係となります。これは本来有るべき姿ではありません。だからと言って、身分の高い上九に養われたいと思ったところで、六二と上九は応も比もなく、何らの縁もないのです。従って素直に初九に養われるべきなのです。六二は従順中正であり、愚かな判断を下す爻ではないのですが、動きに過ぎる震卦の爻でありますので、あえて戒めているのです。
六三
頤(やしない)に拂(もと)る。貞なれども凶。十年、用ふる勿れ。利しき攸无し。
象に曰く、十年、用ふる勿れとは、道大いに悖(もと)ればなり。
養われるべき道に反する。養われること自体は正しくとも凶。かような者を十年は用いるべきではない。弁解の余地は全くない。
六三は上九と応じており、上九に養われるべき立場にあります。それ自体は間違っていないのですが、六三の人格や態度に大きな問題があります。陰爻にして不正、位置も悪く、震卦の上爻にあって軽挙妄動が窮まっているのです。心掛けが正しくないので、上九に対する恩義を忘れて、不遜な態度を取ってしまうのです。
六四
顛(さかさま)に頤(やしな)はるるも吉。虎視眈眈たり。其の欲逐逐(ちくちく)たり。咎无し。
象に曰く、顛に頤はるるの吉は、上の施し光(おおい)なるなり。
微賤なる者に養われるも、吉。己を養う者を虎視眈々と観るべし。上に立つ者が天下を大いに施さんとするが故であり、遠慮なく養われるべきである。咎はない。
六四もまた六二と同じく、初九に養われます。六四にとって初九は応爻ですから、太い関係にありますので、常道を外れてはおらず、かつ六四は高い身分であり、初九に養われることを通じて、それによって天下に施しを与える義務を果たすのです。よって遠慮することなく養われるべきであり、咎はないのです。
六五
經(つね)に拂(もと)る。貞に居れば吉。大川を渉るべ可らず。
象に曰く、貞に居るの吉は、順にして以て上に従へばなり。
常道を外れている。しかし柔順にして従うべき者に従い、正しい道を堅く守れば吉。自ら冒険をしようとしてはならない。
聖なる天子の位置にありますが、やはり養われる立場にあり、比する上九に養われるのです。上九は無位無官の位置であり、そのような者に養われるのは本来有るべき姿ではありません。しかし天下国家を思えばこその大局的な判断でありますので、恥ずべきことではないのです。そして上九は陽なる賢人であり、柔弱なる六五は、上九の指導に従って行動すべきであり、己の自己判断のみに頼って大それたことをしでかすのはよろしくないのです。
上九
由(よ)りて頤(やしな)はる。厲(あやう)けれども吉。大川を渉るに利し。
象に曰く、由りて頤はる、厲けれども吉とは、大いに慶(よろこび)有るなり。
この賢人によって天下万民は養われる。責任重くして危いけれども吉。大きな冒険をしてもよろしい。
無位無官の隠遁者たる位置でありながらも、六五の天子はこの賢者によって養われており、天下国家はこの上九によって養われております。この賢人は常に懼れ憚りながらも任務に耐え、最後には大きな喜びを得られるのです。
まとめ
上下の陽爻、初九と上九は養う立場です。初九は高い能力がありながらも身分が卑く、上九の高貴なることを羨むことを戒めます。
六二と六四は、初九に養われております。六二は初九よりも高貴なる上九に養われたいと思いますが、それは正しい道ではないことを戒めます。六四は天下国家のため、恥じることなく身分の低い初九に養われます。
六三と六五は、上九に養われております。六三は陰険にして媚びを売る小人です。六五は天子の位置にあり、本来は養われるべき立場ではありませんが、上九の賢人を仰いで柔順に従うのです。
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