味わい変えて二幕めへ。濃密にひたる、タルトシトロンの甘美。#レトリカル食レポ
繊細に並んだレモンの果肉にフォークを通らせれば、
第一幕が華やかにひらく。
鮮やかな黄色のレモンクリームと
メレンゲの白のコントラストを掬って
口に運ぶと、
コリッとした果肉の向こうに、
ねっとりと濃厚なクリームが口にあふれ、
やわらかな酸味が舌に届く。
ふんわりとしたメレンゲがその上を
すべり、レモンらしい爽やかさに
やさしい甘味を添えるように
絡み合ったかと思えば、
やがて濃密すぎるほどのクリーム感で一つになり、
うっとりとする柑橘のうねりで
舌をまろっと包みこむ。
クリームを乗せる
ガシッとしたタルト生地を
小さく砕いて、
クリームと合わせれば、
味わいを出す女優は切り替わって、
第二幕へ。
香ばしくやさしい穀物味は、
またたく間に甘い雲の流れとなって
舌の奥で、クリームの
レモンらしさをツンと際立たせる。
舌の上でいたずらっぽく踊る
甘酸っぱい果汁の味わいを、
タルトの静かな甘味が、
おだやかに受けとめるなかで、
まるで第三幕が始まるかのような
スイートな渦が、噛むほどに
幾重にも広がっていった。
東京・四ツ谷「CAFE MIKUNI'S」。
緑陰から吹く、風までがやさしい。
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