
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて (佐藤 優)
会社の先輩の方がご自身のBlogで紹介されていたので、私も読んでみました。同時代の個別具体的テーマを扱った本はあまり読まないのですが、この本は以前から気にはなっていました。
佐藤優氏の側からの事実とそれに基づく評価ではありますが、事件関係者について巷間に伝えられる人物評とかなり異なる“人となり”が書かれています。
このあたり、本書の内容がすべて真実であるか否かは脇に置くとしても、大衆迎合的なマスメディアや単一方向の情報ソースに依存することの危うさを再認識させられました。
さて、本書の著者の佐藤氏は、国際外交の世界での情報を扱う専門家です。
その立場からのコメントで、私の関心を惹いたものをご紹介します。
まずは、真に役立つ情報を得るためのポイントについて。
高い価値を持つ情報を入手するためには、その基礎情報をしっかり摑んでおくことが必須とのことです。
(p189より引用) 情報専門家の間では「秘密情報の98パーセントは、実は公開情報の中に埋もれている」と言われる・・・情報はデータベースに入力していてもあまり意味がなく、記憶にきちんと定着させなくてはならない。この基本を怠っていくら情報を聞き込んだり、地方調査を進めても、上滑りした情報を得ることしかできず、実務の役に立たない。
もうひとつ、何がしかの事件が生起した場合の分析の切り口について。
ここでは、安易に当事者のパーソナリティに帰結させることを戒めています。
(p298より引用) パーソナリティーが問題となる前に、そこに存在している時代状況を解明することが分析専門家として必要な洞察力なのだと私は考える。
自分の中で形作られた人物像には、様々なバイアスや自分自身の手前勝手な評価が混在していますから、それは分析の際のノイズになりミスリードを招くことは想像に難くありません。
その他、本書で初めてお目にかかった「国策捜査」という単語。
いったい何なのか。取り調べの検察官の言葉として紹介されています。
(p287より引用) 国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。
この「国策捜査」のために、著者は512日間勾留されました。そして、ようやくの保釈に際して、印象に残ったものとして拘置所の老看守の言葉を紹介しています。
(p375より引用) 裁判所への護送の途中、ある老看守が、「ここにはいろいろな人が来るからね。若い看守でやたら怒鳴りあげるのは、ここに来ている人たちのことが怖いからなんだよ。人間を見る眼がついてくると怒鳴らなくなるよ」と述べていたことが印象的だった。
この事件は、現在(2008年秋)でも最高裁に上告中です。
(注:最高裁判所第3小法廷(那須弘平裁判長)は2009年6月30日付で上告を棄却、執行猶予付き有罪判決が確定)