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即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ (マイケル・アブラショフ)

 かなり以前に評判になった柴田昌治氏の「なぜ会社は変われないのか」という本を思い出しました。

 著者のマイケル・アブラショフ氏元海軍大佐。成果の出ない無気力な乗組員を一大変身させて、最優秀戦艦に至らしめた新艦長の取り組みのエッセンスを、テンポよく紹介したものです。

 基本は、「一人ひとりのメンバが自ら考えて動く」という自律的組織づくりです。
 まず、著者である新艦長が行ったことは、部下との会話でした。

(p22より引用) 私は、「何をするにも必ずもっとよい方法があると考えよ」と呼びかけることにした。・・・つねに部下に「きみがしている仕事で、もっとよいやり方はないか?」と聞いてまわったのである。

 著者は、部下に自主的なチャレンジを促しつつ、その結果については自責として受け止めています。

(p37より引用) 私は、自分が思うような結果を部下たちから得られなかったときには、・・・自分がその問題の一部になってはいなかったかどうか考えた。自分自身に三つの質問を問いかけたのである。
 ① 目標を明確に示したか?
 ② その任務を達成するために、十分な時間と資金や材料を部下に与えたか?
 ③ 部下に十分な訓練をさせたか?

 うまくいかなかった場合、「そのほとんどの原因は自らにもある」との自覚です。これは、結構難しいことです。

 著者が目指したのは、チームとしての総合力です。そのためには、個のパワーアップが不可欠であり、その肝になるのは、個々の判断力になります。
 ここでの「個」で優先すべき層は「中間管理職」です。これは軍隊でも企業でも同じです。

(p85より引用) 今日のめまぐるしく変化する世界にあっては、本当に重要なもの以外、規則は“厳然たる法”としてではなく、“指針”として扱われるべきである。
 とはいえ、規則を守るべきか、破るべきか、どちらとも言えない状況もある。そのような状況があるからこそ、中間管理職が必要なのだ。もし何もかもが明確に判断できるのであれば、組織は規則をつくる最高経営責任者と、それを意義もなく実行する社員だけで足りるはずだ。
 中間管理職とは、どちらとも言えない状況の中で判断し、指示を出す人間であるべきなのだ。

 本書では、多くの具体的な「改善アイデア」や「べからず集」が示されています。その多くは、私にとっても大きな反省材料でした。

 たとえば、メールによるコミュニケーションについての指摘です。

(p169より引用) 中にはメールで連絡を取ってはいるが、じかに話し合うということをしない上司がいる。メールで連絡を取るのは手軽だが、効果ははるかに小さい。じかに顔を合わせる関係よりも、より抽象的なやりとりが行なわれることが多いネットワークの世界においては、社会的な相互関係が失われつつある。これは重大なあやまちである。

 最後に2点、著者の「リーダー観」を示したコメントです。

 ひとつは、「指導者の評価」について。

(p222より引用) 私は指導者の評価は、本人が組織を離れてから半年か1年経つまでは下すべきではないと思う。自分が任期中にどれだけのことを行ったかということを正確に判断するものは、自分が後任に手渡す遺産なのだ。

 もう一つは「リーダーの役割」についてです。

(p224より引用) どんな分野でも繁栄している企業というのは、リーダーの役割が命令を下すという立場から部下を育てるという立場、「才能の育成者」へと変化している。

 さて、本書ですが、具体的な成功のポイントがサクサクと示されていて大変読みやすい本です。指摘しているポイントも(特に目新しいものは少ないのですが、)首肯できる内容です。
 ただ、ちょっとリアリティには欠けるような印象を持ちました。現実の意識変革の現場には、もっともっと泥臭い山谷があるはずです。



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