『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか (野中 郁次郎)
(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)
いつも利用している図書館の新着本リストで目に付いた本です。
野中郁次郎教授の著作は、今までも有名な「失敗の本質」を皮切りに「知識創造企業」「戦略の本質」等々、何冊か読んでいます。
本書は、数々の著作で語られた野中教授の戦略理論等を俯瞰するとともに、それらの研究の背景やプロセス等につき、野中教授自身が語ったものだということで大いに関心を持ちました。
予想どおり興味を惹いたところは数多くありましたが、その中から特に印象に残った部分を書き留めておきます。
まずは、名著「失敗の本質」誕生に至る防衛大での共同研究の様子です。
そして、この共同研究の書籍化にあたっては、文章表現の統一という点で戸部良一氏が、理論一貫性の担保については野中氏が全体調整を行うというフォーメーションで取り運んだということです。
もうひとつは、「失敗の本質」で説かれている「対米国連戦連敗の要因」について一言で語っているくだりです。
この点は、本書の中で繰り返し触れられているのですが、併せて、その要因は、戦後の日本企業や組織にも継承されていると指摘しています。
まさに、今日の未曽有の危機に相対しての政治・行政の迷走状況を見るに、その構造的欠陥は旧態依然としたもので、野中教授の主張に大いに首肯するところです。さらに、今回のケースは “過去の成功体験” に根ざしていない分、大きく “知的劣化” しているとさえ言えるでしょう。
さて、本書を読んでの感想です。
タイトルだけみると野中教授の代表的著作「失敗の本質」を取り上げての回想録的イメージを抱きますが、実際は、「失敗の本質」から「知識創造企業」「戦略の本質」等、野中教授による主要著作での論考を辿った “野中教授の知的探究半生記” といった趣きのものでした。
個々の著作を取り上げた各章では、その論考で展開した立論を概説していますが、さすがにエッセンスに絞っているので詳細を理解するには難しいところもありました。
やはり、そこはそれぞれの著作そのものに当たるべきですね。
私の場合は、本書で取り上げられた著作のそこそこのものは以前読んだことがあるだけに、かえって自らの理解力の至らなさを痛感した次第です。
情けないことです・・・。