自然を対象とした印象的な写真で有名な写真家星野道夫氏の講演集です。
アラスカの大自然と人々の暮らしに魅了された星野氏の優しい語り口が心地よい内容です。
興味深い話はそれこそ数多くあったのですが、その中でちょっと驚いた星野氏と私の共通体験がありました。
私も小学生のころ、この「チコと鮫」を観た記憶があります。確かに印象の強い映画でした。星野氏の語っているようにその南の海の奇跡的な美しさは未だに忘れられません。
さて、そういう「自然」への憧れから、星野氏はアラスカで暮らすことを決意したのですが、どうしてアラスカなのか、「第三章 めぐる季節と暮らす人々」のなかで、こう語っています。
大自然の中で暮らしている人々がいる、その人々の中にはいって一緒に生活をすることが、星野氏の選んだ道でした。
そういうアラスカでの暮らしの中での1シーン、クジラ漁で捕獲したクジラを解体する場面での星野氏の感想です。
クジラ漁はエスキモーの人々にとって特別なイベントでした。この晴れの場を通し、エスキモーとしての伝統や誇りを伝え確認しているのです。年長者への敬いと若者への期待がうまく交じり合いながら、活きた行事が営なまれていく姿は、温かく健全ですね。
クジラを追う海もカリブーが旅する陸も、ともかくアラスカの自然のスケールは桁違いのようです。アラスカでは、自然ではないところの方が圧倒的に珍しいのです。
もうひとつ、とても面白いと感じたのが、星野氏の「自然」についての考え方でした。それは「ふたつの自然」というものです。
そして、反省。
今、私たちは、資源開発という名のもとにこの遠い自然も失おうとしているのです。それは環境的・物理的な喪失ですが、もっと大きな喪失は、そういう遠い自然を思いやる心を失ってしまうことではないかと、本書を読んで考えさせられました。