(注:本稿は、2024年に初投稿したものの再録です。)
いつも聴いている大竹まことさんのpodcast番組に著者の伊澤理江さんがゲスト出演していて、本書についてお話ししていました。
漁船(第58寿和丸)沈没事故発生(2008年6月23日 千葉県銚子市犬吠埼灯台の東方沖350 km)から11年後の2019年、別の取材で訪れた小名浜港(福島県いわき市)での事故関係者たちの会話をきっかけに、その沈没時の状況とそれに対する公式報告の不自然さを奇異に思った伊澤さんが、事故の真相を粘り強い調査・取材で顕かにして行きます。
数々の興味深いエピソードが記されていましたが、それらの中から特に私の関心を惹いたところをいくつか書き留めておきましょう。
まずは、第58寿和丸の運輸安全委員会による事故報告書。それは、まさに東日本大震災が福島を襲った直後に公表されました。
そして、こう述懐は続きます。
ここまで現場の証言や物証を無視し、委員会の「推定の積み上げ」を根拠とした報告内容がいかなる背景のもとで作成されたのか、伊澤さんの取材はその核心に迫っていきます。
しかしながら、調査関係者の記憶を辿る道は遠く、また(ご都合主義?の)守秘義務の壁に阻まれ、得られたとしてもその証言は断片的で要領を得ないものでした。
伊澤さんはそのようにも思い始めました。
そして、その後も事故原因の究明に資するであろう専門知識を深め、関係者への取材を続けた伊澤さんは、幾重にも重なる “機密” の壁に遮られながらも、最終的には「潜水艦との衝突」が事故原因であったであろうと信ずるに至りました。
今、第58寿和丸の事故原因を究明する営みは、公文書の情報開示請求に対する「不開示決定の取消」を求める伊澤さんたちの運輸安全委員会を相手取った行政訴訟という「司法」の手に委ねられています。
伊澤さんの真実追及への熱意が溢れ迸る本書、まさに “渾身の力作” です。