リーダーを目指す人の心得 (コリン・パウエル)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
コリン・ルール
著者のコリン・パウエル氏は、政治家としてはジョージ・W・ブッシュ政権時の国務長官、軍人としては陸軍大将・統合参謀本部議長を歴任したスーパーエリートです。
本書は、パウエル氏によるリーダー論、アメリカでもベストセラーになったとのことです。しかしながら、「リーダー論」というレッテルは本書の内容を正しく捉えたものではありません。
パウエル氏自らの体験から生まれた箴言はもちろん氏自身の信条を表したものであり、リーダーとしての資質を高めるものではあります。と同時に、パウエル氏が大切にしている言葉やエピソードからは、その人柄・価値観が伝わってきます。
たとえば、パウエル氏の“13カ条のルール”として知られている中の「9.功績は分けあう」の章で紹介されている心理療法士の言葉です。
パウエル氏の経歴を語るとき、しばしば「黒人初の・・・」という接頭句が付くことがあります。マイノリティーとしての痛みを知っているパウエル氏は「思いやり」の人でもありました。
とはいえ、やはり軍人としても、また行政官としても頂点を極めた人物だけに、「判断プロセス」における基本的なプロトコルは厳格に適用しました。
そのプロセスの中でも特に重要なのが「情報」の扱いです。
この4カ条の中で最も実践するのが難しいのが、「わかっていないことを言え」です。そもそも「わかっていない」ことは何なのかを突き詰めるのは極めて困難ですし、情報を求めている上司に対して「わかっていない」ことを言うこと自体に大きなプレッシャーがかかるからです。
したがって、この「わかっていないことを言え」を実践させるためには、上司の側から受容の姿勢を示すことが重要になります。
パウエル氏の受容の姿勢を示す証左のひとつは、パウエル氏が新しい部下に配るメモの第一項目でも明らかです。
指示内容がわからなければとことん聞け、そこまでしてもわからないのならば、自分の方か混乱しているのだとパウエル氏は言っています。
最後の責任を自分に帰納させるこの謙虚な態度は、素晴らしいと思います。私も口では同じようなことを言いはしますが、本当に完遂できるか、またできているかと自問すると、情けないことに全く自信がありません。是非とも学びたい姿勢です。
失敗からの学び
本書で紹介されているパウエル氏のアドバイスにリアリティがあり実践的である理由は、すべてパウエル氏の体験の中で醸成されたものだからです。
その中でも殊更説得力があるのは、パウエル氏の「失敗」から得た教訓を語っているくだりです。
たとえば、2003年、サダム・フセイン政権を崩壊させた「イラク進攻」におけるアメリカの判断を顧みてのコメント。
まさにその時重要な立場にいたパウエル氏の語る教訓はとても重いものがあります。
重要な決定であればあるだけ、その直接的効果の大きさに注意が集中してしまい、その他のことが瑣末な事象に見えてしまうことは確かにあります。また、「手段の目的化」の陥穽に陥り易くもなるのです。改めて心しなくてはなりません。
さて、本書を読んでの感想ですが、一言で言えば、開陳されているパウエル氏のアドバイスは私にとって素直に腹に落ちるものばかりでした。
その中でも特になるほどと感じたものを、最後に書き留めておきます。
「『第1報』に注意せよ」の章にあるパウエル氏の「第1報対応のチェックリスト」です。
最初の、「違和感」を感じる直観は、数多くの経験を積むことによってでしか獲得できないのでしょう。
そして、もうひとつ感じたこと、それは、パウエル氏の“真っ当な姿勢”でした。
もちろん、自分自身の生き方に自信と誇りを持っており、それは、本書の語り口に明瞭に表れているのですが、それ以上に、氏の思いやりに溢れ包容力に富む言葉には大いに感じ入るところがあります。
最終の「第六章 人生をふり返って」の中の「若者は見ている」で紹介されているエピソードは特筆に価しますね。