良い戦略、悪い戦略 (リチャード・P・ルメルト)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
さて、自分たちは・・・
とてもシンプルでかつインパクトのあるタイトルに惹かれて読んでみました。
内容は、まさにタイトルどおりです。ただ、世の中に溢れている“戦略”もののビジネス書とはちょっと違ったテイストですね。
著者が説く“良い戦略”とはどんなものか。著者の答えはこうです。
この基本構造のことを、著者は「カーネル(核)」と名付けています。カーネルはシンプルです。
ここでのポイントは、「行動」ですね。「行動」に結びつかなくては戦略の存在意義はありません。逆にいえば、採るべき行動をぶらさないための軸となってこそ戦略の意味があるのです。
他方、“悪い戦略”とはどんなものか、これについても著者は明確に4つの特徴を掲げています。
特に、一番目の「空疎である」というのは、今までの私の経験においてもよくお目にかかった特徴ですね。言葉が踊っている割に内容は空疎・浅薄という類のものです。
この分かりやすい例として著者は、次のようなものを紹介しています。
さて、本書において著者は、昨今の「戦略論」の主張に対していくつかの重要な指摘をしています。
たとえば、カリスマ的リーダー・チェインジリーダー等を語る「リーダーシップ論」との関わりについて。
カリスマ性を持つリーダーであっても、必ずしも“良い戦略”を立てそれを実行しているとは限りません。これは、身近な政界・財界を眺めてみても大いに首肯できるところです。
もうひとつ、「強力なリーダーシップによる中央集権的なマネジメントスタイルの是非」についての著者の考えです。
戦略の策定と行動の調整は、常に中央集権的であることが正しいとは限らないと語っています。
通常、戦略は現場のアクションにおいて具現化されます。戦略を現場にまで浸透させ、権限移譲による分権的有機体として機能させるのが組織運営の基本です。何でもかんでも常に「全社一丸」でというのは、「組織がない」「組織的でない」というのと同義ということなのでしょう。
近い目標
著者の説く良い戦略は、ザクッと言えば、「最も効果に上がるところを見定め、そこに持てる力を集中投下する」ことです。そして、その“持てる力”というのは「自らの強み」でもあります。
本書の後半では、この「強み」を活用する手立てについて具体的に示しています。
その中のひとつが「近い目標」を定めるというものです。
その章での「リーダーの資質」に関する指摘、多くのリーダーが陥りがちな陥穽を著者はこう語っています。
このアドバイスはとても実感覚に合った的確なものですね。
多くの場合、長期的な高い目標を掲げても、言いだしっぺのリーダーがその達成を約束した期限まで、その責任ある立場に残っていることは稀です。仮に残っていたとしても、その評価を正しく受けることもあまり見かけません。
もうひとつ、著者が指摘する「近い目標」に関する実践的アドバイス。
不透明な将来に対応するための「足場を固める」ステップです。
状況の変化の多様性を前提に、とるべき選択肢を増やしておくのです。
そして、変化を敏感に感知しては、その対応策をきめ細かく発動していくというやり方です。深い霧の中のワインディングロードを、目の前に見えるセンタラインに合わせてこまめにハンドルを当てて進んで行く感じですね。
さて、実際の戦略の実行にあたって、こういった「近い目標」の重要性を指摘する一方で、著者は、戦略思考の基本として「近視眼的思考」は明確に否定しています。
なまじ「経験」や「知識」がある(と思い込む)と返って「過信」や「内部者の視点」で戦略の策定や評価をしてしまいます。
こういった思考方法がもたらした最近の大きな失敗例が、信用バブルの崩壊による「世界金融危機」でしょう。
金融工学の専門家が先導したこの金融危機のあり様は、結果論的に振り返ってみると、過去に何度も経験した「危機」の教訓を持ってすれば、十分に予測しえたプロセスを辿ったものでした。
専門家であればあるほど、自ら陥りがちな陥穽を避ける謙虚な姿勢が必要となります。
「戦略」とその実行は、自らの判断を「仮説」とし、それを「検定」していくプロセスでもあります。
ここで著者が示している「3つの習慣」は、その最初の判断である「仮説設定」において、目先のことや最初の思いつきに迷わされないための具体的な方法なのです。
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