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知の逆転 (ジャレド・ダイアモンド 他)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 評判になっている本ですね。

 「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレド・ダイアモンド氏をはじめとした世界的知識人に対し、「人類の未来をどう予見しているのか」を問うインタビュー集です。
 さすがにどの対談も興味深い言葉が満載ですが、それらの中から特に気になったものをいくつか書き留めておきます。

 まずは、著名な言語学者ノーム・チョムスキー氏が語るインターネット社会の要諦の指摘です。

(p102より引用) 垂れ流しの情報があってもそれは情報がないのと変わりません。何を探すべきか知っている必要がある。そのためには、理解あるいは解釈の枠組みというものをしっかり持っていなければならない。これを個人で獲得するのはたいへんです。機能している教育制度や組織が必要だし、他の人たちとの交流が必要になる。視点というものが形作られ発展していくためには、構造をもった社会が必要になります。

 玉石混交の情報の氾濫の中から、有用で必要な情報をスクリーニングする重要性はひろく指摘されていますが、その方法として「構造」という言葉で「社会」の充実・深化を指摘している着眼は独創的ですね。

 そして次は、「人工知能」の専門家コンピュータ科学者のマービン・ミンスキー氏のコメントです。
 ミンスキー氏は、先の東日本大震災の伴う福島原子力発電所の修復作業に、ロボットが活躍できなかったことをとりあげ、ここ数十年間の技術進歩の停滞を憂いています。

(p173より引用) 問題は、研究者が、ロボットに人間の真似をさせることに血道をあげているということ、つまり単に「それらしく見える」だけの表面的な真似をさせることに夢中になっていることにあります。

 SONYのAIBOもHONDAのASIMOもその類です。ロボット工学は、人からみた親しみ安さ、心地よさの発現に重きを置き、エンターテインメント面に走ってしまいました。

(p173より引用) たとえば、ソニーの可愛らしい犬ロボットは、サッカーをすることができるわけです。・・・けれども、ドアを開けることも、ましてや何かを修理することもできない。

 頭脳ゲームの世界チャンピオンに勝つコンピュータも大したことではありません。そういったチェスのプログラムも、基本は、従前からのコンピュータの得意技である超高速演算パワーを背景とした統計処理に過ぎないのです。

 こういった現状に対し、ミンスキー氏は、今後の研究の方向性として、自ら知能を高めていくような自律的問題解決型のロボット開発を提唱しています。

(p175より引用) 最も重要なことは、まずコンピュータに、人間の子供にできるレベルのことができるようにする。そこから成長させていけばいい。研究テーマの選択を大きく誤ったために、過去30年が失われてしまったんです。

 「知能の成長」に関する理論研究、とても興味を惹くテーマですね。

 そして、最後は、ミンスキー氏に対して「推薦図書」を訪ねたときの答えです。

(p198より引用) いまでは、読むのはほとんどSFですね。少なくともこれらの中には、往々にしてなんらかの新しいアイディアが入っているから。人気小説と言われるものを読むと、いつも古いアイディアに新しい名前の人々を入れかえただけですから。

 応用数学の専門家でアカマイ・テクノロジーズの共同設立者でもあるトム・レイトン氏もSF好きとのこと。
 やはり理系的知性の関心の根源は「科学的未来」を構想する「想像力」にあるようです。



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