プロの知的生産術 (内田 和成)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
著者の内田和成氏は、現在は早稲田大学ビジネススクール教授です。
数多くのビジネス書を執筆していますが、それらの著作で示された示唆やアドバイスは、前職のボストンコンサルティンググループでの豊富なコンサルタント経験を活かした具体的・実践的なものでとても参考になります。
今回の内田氏の問題意識は、「情報活用」です。
以前は、梅棹忠夫氏の名著「知的生産の技術」で紹介された京大型カードのように情報収集・整理力が他者との差別化のキーファクタでした。しかし、現代のようなネット社会においては、情報収集力では差がつかなくなりました。
そういう時代背景を踏まえ、本書では、結果としての「アウトプット」のレベル向上を目指して、そのゴールに向けた手段としての具体的な「内田流情報活用法」が数多く紹介されています。
本書での内田氏の主張によれば、情報活用は「手段」ですから、当然「目的」が重要になります。目的あっての情報です。
目的を明確化した後、その目的に沿った情報収集に取りかかるわけですが、ここでも著者はユニークな提言をしています。「情報は集めるな、覚えるな、整理するな」。
これもまた「情報収集を目的化すること」への警鐘です。
それでは、どうすればより少ない情報で精度の高い判断を下せるのか。それにはやはり「経験」しかないというのが著者の結論です。
しかしこの経験の積み方にも内田流のアドバイスがあります。
この視点の転換は、なるほどなと思いますね。この点をより明快に表したものとして、著者は、帝人の元社長安居祥策氏の言葉を紹介しています。
ここで重要なポイントは「量」の議論に転化しないことです。どうすれば、3割の量の情報をより有益な情報ものにすることができるか・・・、情報の「質」を高めることに知恵を絞るのです。
情報収集は「仕事」をするための「作業」のひとつです。作業の効率化が図られたからといって「仕事」ができたことにはなりません。
著者は、仕事と作業の違いについてこう定義しています。
さて、本書を読み終わっての感想ですが、興味深い内田氏推奨の具体的な「情報活用術」が数多く紹介されているので、それはそれでとても有益でした。
ただ、私としては、内田氏によって、「仕事へ取り組む姿」のToBe像を改めで提示された感じがしています。
自分たちの役割(内田氏の言い方では「期待役割」)や仕事の目的に立ち戻って、自らの行動を見直すという「目的志向」の再認識です。
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