小説日本婦道記 (山本 周五郎)
(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)
会社の同僚の方のお勧めでお借りして読んでみました。こういう形で手に取る本は、通常の私の視野の外にあるものなので、楽しみも増しますね。
1958年出版の本ですが、タイトルの「婦道」という言葉は目新しく印象的です。
一つひとつの物語は、それぞれ閑かでありながらも、抑制されたサスペンスのような緊迫感があります。
作者が舞台としている封建的な武家社会の価値観や、それに応える主人公らの心理・振る舞いには、必ずしも共感できるものではないのですが、とはいえ、時に自らを省みて心に響くくだりがあるのも事実です。
冒頭の短編「松の花」のなかで、藤右衛門は自分の不明を恥じてこう呟きました。
実は、私、山本周五郎氏の作品を読むのはこれが初めてでした。もちろん、有名な時代物の作家であり、大河ドラマ「樅ノ木は残った」や映画「赤ひげ」の原作者であることは周知のことではありますが、こうやって氏の代表作に触れてみると、その細やかな舞台描写の表現や抑揚が効いた台詞回し等々、ストーリーテラーとしての語り口の秀逸さを強く感じますね。
今更ながらではありますが、いろいろな意味でとても新鮮なインパクトを受けた作品でした。