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松平定知が選ぶ「その時歴史が動いた」名場面30 (NHK取材班)

(本稿は2008年に別のBlogに投稿したものの再録です)

 「その時歴史が動いた」は、NHKで放送されている歴史教養番組です。
 現在放送開始から9年目にはいったとのことですが、本書は、過去にとり上げた数々のテーマのなかから、メインキャスタの松平定知氏が30のエピソードを選び紹介したものです。

 その中から、1・2、ご紹介します。

 ひとつめは、「家康の敗北」です。
 武田信玄を相手に、三方ヶ原で大敗北を喫した家康は、その屈辱を忘れないために自身の肖像を描かせたといいます。

(p70より引用) 家康は、絵師を呼びました。「三方ヶ原で負けた時の、その儂の姿、信玄に対する恐怖に震える体、歪んだ顔を絵に写しとっておけ」と命じたのです。
 〈しかみ像〉と呼ばれるその肖像画は、自分の思い上がりを戒め、二度と同じ失敗を繰かえさないよう省みるための戒めでした。

 もうひとつ、今度は幕末、長州の獄中での「松陰の言葉」です。

(p148より引用) 「人賢愚ありと雖も、各々一、二の才能なきはなし」

 渡米を目論み失敗して囚われた獄中での経験が、松陰をして、「人びとの個性を生かした自由な教育」を目指させたのです。松下村塾がその実現の場でした。

 本書で取り上げられているエピソードは、そのほとんどがそれほど耳新しいものではありません。
 そういったなかで、私にとっては新たな知識であったのは、ベートーヴェンの「交響曲第9番ニ短調作品125」にまつわるエピソードでした。
 18世紀末フランス革命期、若きベートーヴェンはフリードリヒ・シラーの詩と出会います。

(p240より引用) 「世の習わしの厳しく分け隔てたものを、汝の力は再び結び合わせる」

 その後、難聴が悪化したベートーヴェンは創作意欲を失い、交響曲第8番以降、長きにわたり彼の作品は途絶えていました。
 そんなベートーヴェンを再び立ち上がらせたのが、若き日に接したシラーの詩でした。

(p240より引用) ベートーヴェンは、・・・この詩を合唱という形で第九に取り入れることを決めたのです。
「人間は、身分や貧富の壁を乗り越え結束できる。地球上の全ての人々は同胞である」
これこそが、ベートーヴェンが第九に託したメッセージでした。

 自らの作品で「英雄」と讃えたナポレオンの変節、そういう激動の時代にベートーヴェンは自らの苦悩への戦いと重ね合わせるように、人間の尊厳と連帯を謳ったのでした。


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