大人の探検ごっこ (清野 明)
たまたま図書館で目に付いたので読んでみた本です。
アウトドア系雑誌の編集者をしていた著者が、自らの足で挑んだ「探検」の数々を記したものです。
「探検」といっても日本国内ですから、せいぜい数日程度のものです。が、素人ではちょっときつそうな行程ばかりですね。
たとえば、上高地に行くにしても、バスなら1時間程度のところを「徳本峠」を越えて10時間ほど歩いて入るといった感じです。そうやって、やっと辿り着いた上高地での著者の体験です。
(p56より引用) 峠を下り、人が大勢いる梓川沿いを歩いているとき、ふと耳に入った女性の言葉。
「何もなくてつまんない」
一瞬ギクッとした。彼女にとって上高地は何もない場所なのだ。目の前をさらさらと流れている清らかな梓川の流れも、あたりに生い茂る原生の森も目には入らないのだろうか。人間は見たいものしか見えないという話は本当なのかもしれない。
著者の選んだ数々の探検先は、幾分、自然の中にある「温泉」に惹かれたようなきらいがありますが、どこもワクワク感のある面白そうなところばかりでした。
何時間も歩いてこういう自然の中に入り込むような機会は、私など、もう全くないので、著者の「探検」にはやはり羨ましさを感じます。
今から30年以上前、1年間だけ北海道に住んでいたときの経験、裏摩周から通ずる摩周湖畔や阿寒岳のふもとのオンネトーに行ったときのことを思い出しました。
さて、本書の中の著者は、探検倶楽部の隊長として時折リーダーシップを発揮することはあっても、ほとんどの場合は少々頼りなげです。
しかしながら、感性は純朴で真っ当ですね。
(p148より引用) この村はもともとは開拓の人が入ってきたところ。350年前に村を捨てざるを得なかった村人たちは、そもそもなぜここで生きていかなくてはならなかったのかと思う。そこには寒さよりも厳しい、別の現実があったということだ。
長野の稗之底村を訪れたときの著者の静かな思いです。
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