東京湾岸畸人伝 (山田 清機)
(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)
通勤途上で聞いているPodcastで昨年末(注:2015年)に紹介されて、ちょっと気になったので手にとってみました。
東京湾に面する土地で暮らす6人の人々を取り上げたライト・ノンフィクション?です。
紹介されているそれぞれの主人公はひと捻りある方々で、とても魅力的です。
その中で、特に一人といえば、“築地のヒール” との別名をもつ築地マグロ仲卸の中島正行さんでしたね。
中島さんの半生も波瀾万丈で引き込まれますが、その生き様は「一見の客は相手にしない」「ときに『損』しても安値で売る」・・・、といった築地でも数少なくなってきている “仲卸” という仕事の興味深い側面も教えてくれます。
このあたりの事情もあり、築地内の取引では金額を「符牒」で表わしているとのこと。まさに閉鎖的で前近代的な世界ですが、そういった玄人集団が、真に質のいい食材の継続的な供給システムを支えているともいえます。
ただ、こういったアナログの取引システムも、今後の豊洲移転を機に益々崩れていくのでしょう。
さて、この築地の中島さんのほかに紹介されているのは、横浜の最後の沖仲仕今里貞三さん、馬堀海岸の能面師南波寿好さん、木更津の「悪人」證誠寺前住隆克朗さん、久里浜病院の「とっぽいひと」荒木晴熙さん、羽田の夢見る老漁師伊東俊次さんの5名。
見慣れた世間とは一線を画しているような暮らしぶりで、それぞれとても味のある生き方をしている方々です。
著者のペンで浮き彫りにされる姿も面白いのですが、みなさんの生きた軌跡を写し取った粗い粒子の“モノクロ写真” には、圧倒的な質感とリアリティがありますね。