弱さの思想 : たそがれを抱きしめる (高橋 源一郎/辻 信一)
(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)
ちょっと気になるタイトルの本ですね。
内容は、「弱さ」をテーマに、作家の高橋源一郎氏と文化人類学者の辻信一氏が語り合った対談を採録したものです。
現代社会の潮流へのアンチテーゼとして、とても興味深い指摘がお二人の会話の中から湧き出てきます。そのいくつかを覚えとして書き留めておきましょう。
まずは、フィールドワークとしてお二人が訪れた「祝島」の話。
祝島は瀬戸内海に浮かぶ小島で、島民は対岸の上関原に予定される原子力発電所建設に長年反対運動を繰り広げているのですが、辻さんは、その過疎と高齢化の島の暮らしが「持続可能な未来のひな型」なのだと語ります。
自給自足の生活はいざというとき強い、小さなコミュニティならではのセーフティネットが自然に機能している、お二人が指摘する「弱さの強さ」です。
そして、さらに辻さんのコメントは続きます。
本書でのお二人の仕事ぶりは、こういった地道なフィールドワークに基づく指摘の明晰さに表れていますが、さらにそれを伝える言葉使いも見事だと思います。
「絶望が足りない」「絶望を抱きしめる」という言い回し、こういった表現で語られる謙虚な心の在り様は今はまったく失い去られているようです。
ホモ・エコノミクスが求める経済合理性とは全く異質で対極にある考え方ですね。お二人が話されているように、3.11の未曽有の大災害のあとの無心のボランティアのみなさんと被災した方々との間に生まれた心の交流は、まさにこういったものだったのでしょう。
もうひとつ「弱さ」に関するトピックとして私が面白いと感じたのは「ゴリラ」の進化についての話でした。
霊長類学者の山極寿一さん(現京都大学総長(注:当時))によれば、ゴリラは「負けない」という特徴を進化によって身につけたのだそうです。
「負けない」は「勝たない」であり「勝ち負けをつけない」ということです。決定的な対立や暴力的な衝突を避けるためのひとつの知恵です。
さて、本書を読み通しての感想ですが、とても刺激的でしたね。
お二人の語り口はいたって穏やかなのですが、その「視座の転換」を求める主張にはとても強烈なインパクトを感じました。
高橋源一郎さんも辻信一さんも若いころは思想的にも行動的にも“過激”であっただけに、そのお話には迫力を内に秘めた説得力がありますね。
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