戦略「脳」を鍛える (御立 尚資)
定石+インサイト
著者の御立尚資氏は、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)のヴァイスプレジデントです。
本書は、御立氏のコンサルタントとしての経験をベースに、「戦略立案のための実践的なノウハウ」を紹介したものです。
(p155より引用) ユニークな戦略=定石+インサイト
=定石+(スピード+レンズ)
=戦略のエッセンス
+(パターン認識+グラフ発想)×シャドウボクシング
+(“拡散”レンズ+“フォーカス”レンズ+“ヒネリ”レンズ)
という御立流の「基本フレームワーク」の各構成要素をひとつひとつ平易な語り口で説明していきます。
御立氏のいう「戦略」はイノベーションを求めます。
(p2より引用) 囲碁・将棋の定石と同様、経営戦略も発見・模倣・陳腐化・イノベーションを繰り返すのがその特徴であり、「定石を超えた戦い方のイノベーション」こそが、戦略の本質なのである。
みんなと同じでは意味がない、「ユニークさ」がポイントとなるのです。
(p24より引用) 戦略とは「ありたい姿」マイナス「現状」であり、「ケンカのしかた」であると定義すると、「ユニークさ」をつくり出すことこそが、勝つための要諦だということがはっきりする。経済学においても、「超過利潤を得るためには、市場を不完全な状態にする。すなわち自社が競争相手と全く違うユニークな地位を占める必要がある」とされている。
御立氏は「ユニークな戦略」を「定石」に「インサイト」を加えたものだと定義します。
(p27より引用) 「インサイト」とは、「勝てる戦略の構築に必要な“頭の使い方”、ならびにその結果として得られる“ユニークな視座”」のことである。
本書は、「理論本」というよりも「実践本」です。
この類の本としては珍しく、頭でっかちな新た理論を振り回すではなく、割り切ったシンプルな例示を多用した「とっつきやすさへの配慮」が感じられます。
サクサクと気楽に読めるので、使い慣れていない頭が拒否反応を起こさないのはありがたい限りです。
The BCG Way
本書は、戦略立案能力の肝である「インサイト」を身につけるためのBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が培った具体的な方法を開陳したものです。
具体的な内容は、微に入り細を穿つというものではなく、かなり大胆に割り切って、「ユニークな戦略=定石+インサイト」という極めて単純な公式に絞り込んで紹介しています。
御立氏によると、「インサイト」とは、「戦略論の知識(定石)」と「勝てる戦略(ユニークな戦略)の構築能力」とのギャップを埋めるプラスアルファの能力のことをいいます。
実戦対応の一種のHow To本ではありますが、この本を読んで誰でも戦略的立案ができるかといえば、絶対に無理です。How Toは実際に使えなくては意味がありませんし、使えるようになるためには、それこそ“実戦での実践”を重ねるしかありません。
さて、本書には、How Toの本線以外の周辺系の記述にも、いくつか気になるコメントがありました。
まずは、「思考のスピードアップ」に関する御立氏のコメントです。
(p41より引用) 新製品開発を考えてみても、全く新しいものをゼロからつくり上げるケースはほとんどない。世紀の大発明といわれるものでも、ほとんどがアレンジだ。何かをモデルにして磨き上げ、新しいアレンジを加えて精度の高いものに改良していくのが創造的作業の基本である。
つぎは、よく言われる「平均値の弊害」について。
この点は、常に意識して思い起こすように気をつけておかないと、ついついこの落とし穴に落ちてしまいます。
(p70より引用) 多くのデータは何らかの加工を通じて、平均化されている。平均化された情報は、必ずしも実態を表さない。良い仮説を出すためには、まず平均値情報をばらばらにし、個々のデータを鳥瞰することが第一歩となる。
最後は、御立氏が「知的シャドウボクシング」と呼んでいる訓練法です。
(p72より引用) 現場、すなわち観察事実とコンセプトをいったりきたりすることを、自分に強いる。このクセをつけることが、ユニークかつ筋の良い戦略をつくる能力につながっていくのだ。
この「コンセプトワーク」と「フィールドワーク」の往還が、「本の中のThe BCG Way」を「現場で活きるThe BCG Way」に変えるのでしょう。
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