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宮本常一が撮った昭和の情景 上巻/下巻 (宮本常一)

 宮本常一氏の著作は、以前「忘れられた日本人」を読んだことがあります。

 本書は、昭和30年から55年の間に宮本氏が日本全国を巡って撮った約10万枚の写真の中から選ばれたものを、各年ごとに上下2巻にわたってまとめたものです。

 上巻巻末の田村善次郎氏の解説にあった、宮本氏のフィールドワークの基本姿勢についての紹介です。

(上 p248より引用) 一歩も二歩も踏み込まなければ撮れないカットは、9万枚とも10万枚とも云われる先生の写真の中には1枚もない。そう断言してよいだろう。
 「良い民俗調査をしようと思うのなら仲間になることである。君たちだって本当の仲間、友達には心をひらいて何でも見せるし、話もする。夜になれば泊まっていけともいうだろう。それを迷惑とは思わないはずだ」と私どもが何度も聞いた言葉である。

 本書に採録されている写真は、もちろん興味深いものばかりです。
 狭い国土を、その土地土地の気候風土に合わせて工夫し尽くした風景、海岸にまで迫る広島県呉市横島の段々畑や、珍しい香川県直島の枝条架式塩田・・・は、おそらく今はもう見られないでしょう。

 本書の楽しみは、それら貴重な写真に止まりません。数々の写真に添えられている宮本氏の著作からの引用が、その時代々々の空気を伝えています。
 たとえば、北海道利尻郡(利尻島)の昭和39年の街並みは、宮本氏にはこう映っていました。

(上 p235より引用) 島に来て見ると没落したのは少数のニシン建網業者であり、大半の島民は逆にその生産に生活にこれまで以上の工夫がなされ、この島を自分たちの安心して住める島にしようとの努力がうかがわれる

 また、福島県二本松市小浜の縁側のある民家の写真には、こう付されています。

(下 p214より引用) 縁側などというものは、一見不必要なもののようですが、それが日本人の生活にうるおいを与え、人と人とを仲よくさせた功績は実に大きかったと思います。が、これから先の家は、次第に縁が消えていくのではないかと思います

 まさに、その後の日本からは「縁」が消えていったのでした。

 私が生まれたのは昭和30年代半ばなので、同時代としての記憶にあるのは下巻(昭和40年~55年)の風景です。
 何枚かの写真に顔を出す雑種犬の姿に懐かしさを感じます。私の家の近所にも「アカ」という犬がいました。



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