世界一やさしい問題解決の授業‐自分で考え、行動する力が身につく (渡辺 健介)
ロジカル・シンキングの「きほんのき」を中学生向けに解説した本です。
分かりやすい絵をふんだんに入れて、親しみやすい口調で説明が進んでいきます。
主として利用しているのは、「ロジックツリー」による階層化です。
それを活用して実際に問題を解決してゆく過程を、中学生にも身近に感じるようなストーリーに仕立てて解説しています。
100ページ程度の本ですから、説明内容は一般的で目新しいものがあるわけではありません。が、ところどころ、私としても、折に触れて意識して留意すべきポイントが指摘されています。
たとえば、「手段の目的化」の例としての「情報収集・分析の留意点」です。
(p45より引用) 情報を集め、分析するのは、あくまでよりよい判断をするためです。何が何でも分析を完璧にする、ということではありません。ときどき、分析することそのものにハマってしまい、目的を見失ってしまう人もいます。
限られた時間の中で、最もいい判断を導き出すことができるよう、効率のよい情報収集、分析を心がけてください。
また、「課題の可視化」の重要性について。
(p48より引用) ・・・紙に書くと、頭が整理できるというメリットもあります。必要な作業がハッキリするので、ダブったり、うっかり忘れたり、といったことも防げます。つまり、本当に必要なことだけに絞り込むことができるのです。
この手のロジカル・シンキングは、ひとつの考え方としては理解しておくべきものだと思います。が、反面、思考方法の「画一化・パターン化」を助長することにもなりかねません。30人のクラスの生徒全員が、同じロジックで物事を考えるようになってしまう姿を想像すると、それはそれで気持ちの悪いものです。
枠にとらわれない個性溢れる発想がどんどん提示され、そういう様々な考え方が尊重されるような教室になって欲しいものです。
ロジカル・シンキングのMECE(Mutually Exclusive collectively Exhaustive)の「もれなく」で、「意外性のある考え」が含まれうるのか。もちろん含まれうるはずですが、ロジカル・シンキングが画期的な発明を生んだという例を(私は)聞いたことがありません。
著者は、あとがきでこう言います。
(p115より引用) 世界に先駆けて日本全国でこのような教育が広がれば、個々人の潜在的な力をもっと引き出すことができるのではないかと思います。それはいずれ、「主体的に考え、行動する人材」「世界で活躍する人材」の輩出につながるでしょう。
先に紹介した本「同じ年に生まれて-音楽、文学が僕らをつくった」の小沢征爾氏や大江健三郎氏がロジカル・シンキングを信奉していたとは思えません。
本書が主張するロジカル・シンキングの勧めも、考え方の「画一化・パターン化」ではなく、「多様化のひとつ」となればいいのでしょう。
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