コトラーを読む (酒井 光雄)
マーケティングの定番テキストといえばフィリップ・コトラーの「マーケティング・マネジメント」という大著が有名です。
私も30年以上前から1冊手元においていますが、読み通す元気はありませんでした。(未だに読破していません)
本書は、コトラーのマーケティングの考え方を概括した超ダイジェスト版ということでザッと読んで見ました。
コトラー氏のテキストは、今から見ても「先取り」の視点もあれば、昨今のトレンドも踏まえて改訂を続けている「フォロー」の配慮もあります。
(p167より引用) ネットの登場により企業側が情報をコントロールする時代は終わり、生活者が情報をコントロールできる時代に入ったことを、コトラーは強調しています。
そういう意味では、コトラー氏は、テキストの執筆において、まさに「顧客起点」の考え方を実践しているとも言えます。
ただ、「マーケティング・マネジメント」という書物自体はあまりにも大作過ぎて、「顧客の立場」には立っていないと言えるかもしれません。いや、コトラー氏のことですから、むしろ明確にターゲット(読者)を絞った「商品(著作)」なのでしょう・・・
以下、本書で紹介されている「マーケティング」の「きほんのき」の記述です。
まずは、コトラー・マーケティングの源「顧客起点」についてです。
(p33より引用) 顧客起点の発想は、製造業はもとより、サービス業などあらゆる業界で必要な事業視点です。
例えばハートフォード生命には、商品開発の最終段階に「マザーセールス・テスト」と呼ばれるユニークなテストがあります。これは「社員が自分の母親に対して、自信を持って自社の新しい商品を販売できるか?」という問いかけをして、商品の精度を判断するテストです。・・・
また・・・ニチレイの企業行動指針の中には、「もう一人の家族のために」という文言が入っています。顧客の存在を、自分の妻子や両親など自分の家族と同じように考え、製品づくりから販売方法まで最善の方法を社員が判断し、行動するように促すためです。
コトラー氏によれば、企業における「マーケッター」は顧客のための番人だとのことです。
(p50より引用) マーケティングに携わる人とは「顧客に最善の商品やサービスを提供し、顧客に満足を提供する顧客の番人であるべきだ」と、コトラーは指摘しています。
また、新商品開発にあたっての「常識」についてです。
まずは「コンセプト」です。
コンセプトは、きちんと「言葉」で言い表せなくてはなりません。これは、マーケティングに限らず、あらゆる場合に登場する「コンセプト」に共通の基本です。言葉にしなくては、明確になりませんし、伝えることも共有化することもできません。
(p82より引用) コンセプトとは「製品のアイデアを、顧客が理解できる言葉で説明したもの」だとコトラーは説明しています。コンセプトが明確だと、説明を受けた人は具体的な製品をイメージすること(心の中に製品の具体像を思い浮かべること)ができるはずです。
いくら「コンセプト」は素晴らしくても、結果、顧客に届かなくては「サービス」になりませんし、「商品」にもなりません。
(p77より引用) 製品がいかに素晴らしい機能や効能を持っていても、失敗することがよくあります。それは、「誰もその製品の存在を知らず」また「どこに行っても売られていない」場合です。・・・
優れた商品を考え出すだけでは、新製品開発とは呼べず、また事業としても成功しません。良い製品がつくられ、想定した顧客にその製品情報が正しく伝わり、顧客の購入が継続して初めて、新製品が成功したといえるのです。
これも、至極当たり前のことです。
ただ、ここまでやり切ることの難しさゆえに、“マーケティングの指南書”のニーズが絶えないのですね。