大前の頭脳 「産業突然死」時代を生き抜く知恵 (大前 研一)
「ビジネス力の磨き方」以来、久しぶりに読んだ大前研一氏の著作です。
私は「大前信者」ではありませんが、初期の「企業参謀」の印象が強かったせいか、時折「大前本」に手を伸ばしています。
本書ですが、「産業突然死をまねく日本の病因」「『産業突然死』時代を生き抜く14の提言」「揺れる世界経済と日本」という三章から構成されています。
「ボーダレス」「サイバー」「マルチプル」という3つのキーワードが、最近(注:2010年当時)の大前氏が唱えている基本コンセプトですが、この切り口からの論考が本書の至るところで顔を出します。
たとえば、第一章の「日本の病因」についての考察。
日本の「ボーダレスへの非適応」が指摘されています。
この点についての具体的な例はいくつか挙げられていますが、そのひとつが「シンガポールとの比較」です。シンガポールはすでに「一人当たりGDP」で日本を抜き去ってします。が、「シンガポールの発展の源は、シンガポール自身にはない」というのです。
もうひとつ、今度は第二章「『産業突然死』時代を生き抜く14の提言」の中から興味をいただいた点を覚えに記しておきます。
「日本企業は、グローバル・ニッチ・トップで生き残れ」という指摘のくだりです。
ここで登場するのが「スマイルカーブ」というチャートです。縦軸に「利益率・付加価値」を、横軸に「研究開発/商品企画→素材/部品生産→加工組立/量産→販売→アフターサービス→ブランド」をとった座標軸上で描かれる「スマイルカーブ」において、日本は「素材/部品生産」といった高付加価値プロセスで大きな強みを発揮しているのだと大前氏は主張しています。
そういった高付加価値部本を製造する「工作機械」の分野でも、日本は大きなポジションを占めているとのこと。
これらの高品質・高付加価値の素材・部品を利用して、製造工程とインテグラルにすり合せをしながら完成品までもっていく、こういったプロセスは日本企業のお家芸です。
本書を読んでの覚えの最後は、「心理経済学」というコンセプトです。
これもここ数年大前氏が強調している切り口です。
このあたりの指摘は、私も首肯できるところがあります。
ただ、当然ですが重要なのは、「背中を一押しする」ための具体的施策です。「定額給付金」の効果については全く振り返られてもいないようですが、予想通りの失敗施策だったのでしょう。最近の「エコ」をトリガーにした補助金・ポイント制・優遇税制等は、その継続性には疑問が残りますが、比較的成功した例といえるかもしれません。(注:これも、予想どおり、効果の継続性は発揮できませんでした)
さて、本書、Nikkeibp.netの連載の再録でもあるせいか、大前本には付き物の自己礼賛も比較的少なく読みやすい内容です。逆に「コテコテの大前ファン」からみると少々物足りないかもしれません。
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