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銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎 (ジャレド・ダイアモンド)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 読もう読もうと思っていてなかなか手を付けられなかった本です。
 ジャレド・ダイアモンド氏のベストセラー、あまりに有名な著作で「何をいまさら」といった感がありますが、それでもやはり見逃せないでしょう。

 壮大なテーマを扱った著作ですが、幸いにも「プロローグ」の中に、本書での立論の要約が語られていました。

(上p35より引用) 著者というものは、分厚い著書をたったの一文で要約するように、ジャーナリストから求められる。
 本書についていえば、つぎのような要約となる ―「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」

 さて、このプロローグ以降、本論では興味深い論考がなされていくのですが、その中でもとりわけ私の関心を惹いたところを書き留めておきます。

 まずは、著者の関心の中核にある「世界の富とパワーの地域格差」の発生要因に関する考察です。
 ポイントは「食料生産」にありました。

(上p148より引用) 食料生産を他の地域に先んじてはじめた人びとは、他の地域の人たちより一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発達させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと歩みだしたのであり、この一歩の差が、持てるものと持たざるものを誕生させ、その後の歴史における両者間の絶えざる衝突につながっているのである。

 そして、地域によって「食料生産開始時期の差」が生じた要因については、こう解説しています。

(上p231より引用) 栽培可能な野生種の分布状況は地域によって異なり、それに呼応して自然発生的に食料生産がはじまった年代も地城によって異なり、農耕に適した肥沃な地域のなかには近代になるまで食料生産が独自にはじまらなかった地域もありえた。

 世界史において大きなトピックとして、1492年コロンブスの新大陸「発見」を契機としたヨーロッパ人の進出があります。当時から新大陸の住民は旧大陸の人々よりも劣後の位置にありました。
 「アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか。なぜ、その逆は起こらなかったのか。」、その要因は、「人」そのものにはありませんでした。

(下p240より引用) 食料生産をスタートするタイミング自体が遅かったこと、そして家畜化できたり栽培化できたりする野生動植物の種類が限られていたことに加えて、地理的要因や生態的要因が大きなさまたげとなって、南北アメリカ大陸では主要な発明や、技術や、作物や、家畜といったものが迅速に拡散しなかった。これに対して、東西方向に横長な陸塊であるユーラシア大陸では、緯度や生態系のちがいをまたぐことなく、さまざまなものが各地に拡散していけた。ところが、南北方向に縦長で、とりわけバナマのあたりでぎゅっとくびれている南北アメリカ大陸は、砂漠やジャングルによっても地理的に分断されていた。そのため、食料の生産に適した地域や、人が密集して生活できる地域がユーラシア大陸のように広くつづいていなかった。

 さて、本書を読み通しての感想です。

 正直、説明が重複していたり冗長であったりしているところが少々気にはなりましたが、1万3,000年に及ぶ時間をスコープにして「ひとつの大きなテーマ」を軸に俯瞰しつつも細部を詰め可能な限り数値化しながら検証していくプロセスはとても刺激的でした。
 確かに読み始めると興味が尽きない意欲的な著作ですね。



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