スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン ― 人々を惹きつける18の法則 (カーマイン・ガロ)
アップルCEOのスティーブ・ジョブズは、その経営手腕もさることながらプレゼンテーションの見事さでも有名です。
もちろん、そもそも彼が紹介するプロダクト自体とても魅力的なのですが、それを、より効果的・印象的に伝える彼のコミュニケーション能力によるところも非常に大きいのです。
本書は、ジョブズによる数々の具体的プレゼンテーションを取り上げて、その成功の秘訣を紹介しています。その中には、ジョブズならではの工夫もあれば、普遍的な原則も含まれています。
まずは、普遍的なものからいくつか覚えに書き留めておきます。
一つ目は、「プレゼンテーションは聞き手のため」という姿勢についてです。
これはあまりにも当然のことですが、実際これを満たしているプレゼンテーションは数少ないですね。
話し手は、つい、自分の伝えたいことを自分なりのストーリーで、それこそ一方的に話してしまうのが現実です。その結果、「それで、結局、私にとって何がいいの?」という疑問が、聞き手のフラストレーションとして残ってしまうのです。
二つ目は、「ヘッドライン」。
一言で惹きつけ、あらゆるプロモーションを通して徹底的に浸透させるフレーズの重要性の指摘です。その典型的な成功例が、ジョブズ自身が考えたといわれている2001年10月の「ipod」発売時のヘッドラインでした。
「ipod。1000曲をポケットに。(1,000 Songs in Your Pocket.)」
他方、ジョブズならではといったプレゼンテーションのテクニックもあります。
たとえば、「敵役」を登場させて、自らの製品の素晴らしさ・革新性を際立たせる演出。
もちろん「正義の味方」は「アップル」です。悪玉は・・・、以前は、たとえば「ビッグ・ブルー(IBM)」、そして、最近(注:2011年:本稿初投稿当時)は「マイクロソフト」ですね。悪玉が支配する市場に対して、正義の味方が挑みます。もちろん、悪玉に不満を抱いている利用者のためにです。
また、ジョブズならではの機転の利いた言い回しもあります。
その中でも特に秀逸だと感じたのが、「シェア5%の表し方」でした。
以前のアップルのPC市場でのシェアは非常にわずかなものでした。今でもそれほど高いわけではありません。そういう現状を、ジョブズは見事に逆手にとって、アップルブランドの価値を高めていくのです。
うまいもんです。こういわれると、むしろ「5%」である方が魅力的に感じてしまいます。
本書は、ジョブズのプレゼンテーションが卓越して魅力的に感じられる、その秘訣を紹介している本ですが、そのメインテーマ以外でも興味深い気づきが数多く得られました。
その中からひとつ、最後に書き留めておきます。
アップルのデザインを担当しているジョニー・アイブへのインタビューから、「個性的デザイン」について語ったくだりです。
初代ipodは、ジョブズのシンプルさへのこだわりが生み出したのです。