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燃える闘魂 (稲盛 和夫)

(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)

 稲盛和夫氏の著作は、以前「アメーバ経営」「『成功』と『失敗』の法則」を読んだことがあります。
 最近話題になっている著作の「生き方」はどうもタイトルが仰々しいのでちょっと敬遠していたのですが、今回の「燃える闘魂」は逆にタイトルに惹かれました。

 本書は、まさに、稲盛氏の経営哲学を支える想いを “燃える闘魂” というフレーズに凝縮して伝えようとしたものです。

(p22より引用) 新しき計画の成就は只不屈不撓の一心にあり。さらばひたむきに、只想え、気高く強く、一筋に

 この中村天風師の言を引いて、稲盛氏は日本航空の会長に就任した時、社員に訴えたといいます。
 現代日本の経営者にはこの “不屈不撓の思い” が決定的に欠如しているというのが稲盛氏の大きな不満であり、それゆえに、「世のため、人のため」に全力を尽くすような “燃える闘魂” を奮い立たせようと、世のリーダーたちを鼓舞しているのです。

 そして、この “燃える闘魂” を望ましい方向に発揮させるよう制御するものが、「すばらしい『徳』に満ちた、やさしい思いやりの心」だというのが、稲盛氏の信念です。

 本書の最終章で稲盛氏は、この日本人の精神性を機軸に据えて「日本再生への道」を語っています。

 その具体的方策のひとつが「高付加価値素材・部品の製造」です。

(p191より引用) 日本には、緻密なものづくりに関しては、世界に誇る知の蓄積がある。典型が、素材や部品の技術力だろう。・・・他国が容易にまねできない「高い付加価値」を生み出す高度な技術は、いずれも敬虔で高い精神性に支えられている。

 ともかく、「日本人の特性である『日本人の精神性の発露』を競争力の源泉とすべきだ」というのが、稲盛氏の主張です。

(p192より引用) 「機械の泣いている声」が聞こえるほど仕事に打ち込み、「手の切れるような製品をつくる」べく、一心を傾ける姿勢・・・

 これは、自身が京セラを一流の企業に作り上げる過程で、稲盛氏が技術者に求めた厳しさを示すエピソードとして語られているフレーズですが、こういった “完璧を極めよう” とする姿勢は、ちょっとスティーブ・ジョブズを髣髴とさせるところがありますね。

 さて、本書を通読した感想ですが、正直なところ、私には少々期待外れでした。

 以前の著作である「アメーバ経営」あたりでは、稲盛氏の経営に賭ける情熱とともに、その具体的な哲学や独創的なアイデアが紹介されていました。
 読んでいても納得感がありましたし、「時間当たり採算の最大化」を目的とした管理会計手法のコンセプトは実際に仕事に活かしたいとも思いました。

 しかしながら、本書の場合は「燃える闘魂が足りない」「燃える闘魂を持たねばならない」との稲盛氏の強烈な信念が、繰り返し繰り返し訴えられているだけのような印象を受けてしまいました。
 もちろん、稲盛氏の “今に対する忸怩たる想い” は痛いほど伝って来るのですが・・・、だから「徳」を持て、「燃える闘魂」を持て・・・、それだけではどうも・・・。

 ただ、こういった感想を抱くのは、私の方が知らず知らずのうちに唯物論的な「How To思考」に毒されているからかもしれません。
 その意味では、自らを省みる良い機会ではありました。



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