沸騰都市 (NHKスペシャル取材班)
2008年から2009年にかけて放送されたNHKスペシャル「沸騰都市」。
本書は、同番組の取材陣による書き下ろしです。ちょうど、リーマンショック以降の世界的な金融危機を挟んだタイミングを舞台としているので、内容は、その前後をフォローした興味深いレポートになっています。
「沸騰都市」として取り上げられたのは、ドバイ・ロンドン・ダッカ・イスタンブール・ヨハネスブルク・サンパウロ・シンガポール、そして東京の8都市。
それらの中から、特に私の興味を惹いた部分を紹介します。
まずは、「第1章 ドバイ 砂漠にわき出た巨大マネー」の章。
当時の典型的な不動産ブローカーであるイラン人投資家ラミン氏の取材から。
そして、ドバイの不動産バブルの崩壊。それでもドバイでは、下落した物件を買い漁るためのファンドが動いているとのこと。どんな状況に陥ってもマネーゲームは続くようです。
次は、「第3章 ダッカ “奇跡”を呼ぶ融資」の章。
貧困解消を目的として設立されたNGOバングラデシュ農村向上委員会(BRAC)は、貧困層自立支援のために「寄付ではなく融資」という方法を採用しました。
例の「マイクロクレジット」です。融資という体裁は、何としてでも貧困から抜け出そうという向上意欲のある人を集めることになります。
向上心という観点からは、「第6章 サンパウロ 富豪は空を飛ぶ」の章で紹介された新垣宏助氏の生き方も感動的です。
日系二世の新垣氏の両親は90年前、移民としてブラジルにやってきました。新垣氏の幼い頃は貧困にあえぐ生活でした。その後、幾多の苦労の末、エタノール生産で富豪となったその新垣氏ですが、「成功の秘訣」について問われたときの彼の言葉です。
新垣さんは81歳(取材当時)。座右の銘は「ゆっくりしっかり」とのこと。
さて、最後にご紹介するのは、「第7章 シンガポール 世界の頭脳を呼び寄せろ」の章で紹介された「厳しい現実のコントラスト」です。
故郷バングラデシュに教育施設を作ることをみて、その資金作りにシンガポールに働きに来ていたデロワール・ホセン。そういう外国人労働力を、超合理主義国家シンガポールは景気変動の調整弁として扱います。バングラデシュに送り返される直前のホセンは、こういい残しました。
本書では、世界各地の「沸騰都市」の中で、バブルで沸き返りそして金融危機で転落した人々を描くとともに、その対極として、夢に向って堅実に歩んでいる貧困層に属する人々も丁寧に紹介されています。
沸騰都市のひとつ「東京」に住んでいるひとりとして、改めて、いろいろなことを真剣に考えさせられます。