命のクルーズ (高梨 ゆき子)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつも聞いている大竹まことさんのpodcast番組に著者の高梨ゆき子さんがゲスト出演していて、本書の紹介をしていました。
高梨さんは読売新聞編集委員です。
新型コロナウィルス感染症流行当初、ダイヤモンド・プリンセス号を舞台にした船内感染の顛末は日本国内のみならず世界的にも大いに注目されました。
船内は実際どんな状況だったのか、乗客・乗員そして感染対策のために派遣された人々はどんな思いで、どう行動していたのか、綿密な取材をもとにした様々なエピソードが紹介されています。
その 中から、私の興味を惹いたところをいくつか書き留めておきます。
まずは、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の中で「陽性」と判定された乗客を受け入れる病院の確保を図るためにとった現場対応の様子から。
受け入れ側の医療体制と感染現場の実態とがあまりにもかけ離れていて、従前からの規定をそのまま適用しようとしても全く役に立たちません。その調整は現場レベルでの超法規的運用で何とか乗り越えていったのです。
また、現場で奮闘する医療関係者の頭越しに、船内隔離で苦しむ乗客の気持ちを逆なでするようなこんなこともありました。
それを伝える乗客の方の声です。
政府関係者は苦労していないとは言いませんが、そのレベルの “やっている感” をアピールしても、身近な状況の改善を感じられない乗客にとっては何の意味もないものでした。
さて、本書でも詳しく取り上げられたように、今回のダイヤモンド・プリンセス号に関する新型コロナ感染症対策は、DMAT(Disaster Medical Assistance Team=災害派遣医療チーム)が現場の中核として活動しました。
DMATは、あくまでも「災害対応」の組織なので、今回のダイヤモンド・プリンセス号をはじめとした新型コロナ感染にかかる対応は想定している活動の範疇外のものでした。それでも、DMATのみなさんは、すべて「自分たちがやらなければ誰がやる」という使命感にもとづき、超法規的な扱いで参画していきました。
ということですが、それでも今回のDMATの現場活動は、間違いなく必要不可欠なものであり、最悪の状況を回避させるのに大きな貢献を果たしました。私はDMATの判断は勇気あるものであり正しかったと思います。
本質的な問題は「DMATが動かざるを得なかったという現状」にあります。
国・自治体には、こういった緊急感染症対策に機能する正規の仕組みはなかったということです。政府・自治体の対応は、すべからく場当たり的で後手に回ったものだったのです。
最後に、強く印象に残ったダイヤモンド・プリンセス号で診察にあたったDMATの小早川義貴さんの言葉を書き留めておきます。
医師のひとことで患者の気持ちは大きく変わります。それを理解している医師が発したとても重い言葉だと思います。
小早川さんは、診察や訪問で触れ合った患者さんたちに自分の携帯番号やメールアドレスを伝え「いつでも連絡してきてください」と声をかけたといいます。それで、どれだけ力づけられたことか。本当に頭が下がりますし、こういった医療現場最前線で献身的な活動を続けている方々を何とかサポートし続けたいと心底思います。
本来、我がこととして、もっともっと真剣に取り組まなくてはならない人々(政府・自治体関係者)を何とかして動かす努力も併せて。
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