MBAコースでは教えない「創刊男」の仕事術 (くらた まなぶ)
現場のことば
著者のくらたまなぶ氏は、リクルートで「とらばーゆ」「フロム・エー」「じゃらん」といった新たなコンセプトの情報誌の創刊に関わった中心人物です。
そのくらた氏が、それら数々の情報誌創刊にまつわる自らのリアルな経験をもとに、新たなものを産み出す「頭と体の動かし方」を開陳したものです。
現場観に溢れたコメントには、なるほどという気づきの視点と圧倒的な説得力があります。
たとえば、「マーケティング」ということばひとつとっても、くらた氏流の理解と解説はこういう感じです。
(p45より引用) 「マーケティングって、翻訳するとこうなるんじゃないか…」
やっとそう思えた。翻訳とは、具体的な作業ベースに落としこめる日本語っていう意味だ。
「人の気持ちを知ること」
これがマーケティングの日本語訳で間違いないと思った。
その後、さらに以下の四つの作業に分解できることもわかった。
①人の気持ちを知ること。
②それを言葉にすること。
③言葉をカタチにすること
④できたカタチを、ふたたび言葉で人の気持ちに訴えること。
最初の「知る」という点。
ここでよく登場する「市場調査」と「マーケティング調査」の違いについても、なるほどという現場観のあるそれぞれの定義を示してくれます。
(p68より引用)
・市場調査-きのうまでの「人の行動」を、数字で知ること。
・マーケティング調査-明日からの「人の気持ち」を、言葉で知ること。
くらた氏は、徹底した現場重視のヒアリングで「人の気持ち」をつかんでいきます。
そのほか、これまた現場感のあるコメントをもうひとつ。
情報誌というとキャッチコピーや感性を重視するので、踊ったフレーズがもてはやされそうなイメージがあるのですが、そうではないようです。「ふつうの言葉」が使われていることが大事だとの指摘です。
(p133より引用) 会議での話し言葉でも、報告書での書き言葉でも。見て、聞いて、仕事が順調に進んでいるかどうかがわかるモノサシが、経験上たった一つだけある。
ふつうの言葉が使われているかどうか。
聞いたこともないむずかしい熟語。しゃれたカタカナ用語。そんなものが散乱していたら、「あ、これはうまくいってないな」と思っていい。
確かに、横文字が踊っているプレゼンはよく見かけますね。
「ふつうの言葉」で話すということは、情報誌の立ち上げに限らず、どんなプロジェクトにおいても、そのコンセプトやビジョンを関係者全員の腹に落とす際の肝になります。厚化粧の意味不明な単語は、上滑りで同床異夢のもとです。
新規事業を立ち上げる
くらた氏は、自ら、新たな情報誌を世に出すという新規プロジェクトに数多く関わられたのですが、その経験を活かして、他企業や地方自治体の新規事業開発の支援の仕事にもたずさわりました。
そのくらた氏が語る「新規事業立ち上げの肝」です。
(p151より引用) 次から次に会って話をするうち、起業パワーには大きく二種類あると思った。
「ハングリー精神」と「大好き精神」。・・・
通常業務に従事しながらも、かたわら「絶対に新事業を起したいんだ」という情熱の源泉。
「ハングリー」と「好きもの」が、新しいものを生み出していくんだなと思った。
ともかく「やる気」です。「やらされている感」のある事業が成功するはずもなく、その意味では、新規事業の成功の可否はまさに「人」にかかっていると言えます。
そうはいっても「気持ち」だけではだめですね。
(p188より引用) 「夢」から始めた創刊の全プロセスは、・・・
1から4までが「夢」モード。国語作業。聞いて、しゃべって、言葉にする。楽観的に。
5から8までが「現実」モード。算数作業。数字、数字、数字。リアルに現実的に。
1から4までが「カッコいい大風呂敷」。5~8までが「地味な一歩」。
「右手にロマン、左手にソロバン、心にジョーダン」。くらた氏のいう「起業の絶対3条件」です。
最後に、これぞ現場という一言です。
(p239より引用) 人間POSが、耳と口を使って共有し、論争し、妥協点を見つける。そして変身し続ける。・・・
「わからないことはすぐ聞け! 知っていることはすぐ話せ!」
現場では「声に出す」ことが大事です。
いまなら「メールで聞く」「ネットで検索する」・・・?
そんなことより、知っていそうな回りの人に、面と向かって聞きまくる方がずっと役立つ情報が得られます。
仕事場そのものが「リアルな知恵の共有の場」にならなくてはなりません。
声に出すことは、個人の暗黙知を組織としての形式知化する「はじめの一歩」です。
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