採用基準 (伊賀 泰代)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
私の知人の間で結構評判になった本なので、遅ればせながらですが読んでみました。
著者の伊賀泰代さんは世界的に有名な戦略コンサルティングファーム“マッキンゼー”の採用マネジャーを12年務めた方です。本書はその著者が語る「人材論」です。
マッキンゼーで大切にする人材は「考えることが好きな人物」です。
採用面談では、まずその点を確かめます。「ケース面接」はそのためのツールです。
そして、この考える能力は、「分析力」に代表される“掘り下げる”方向ではなく、「仮説構築力」「構想力」といった“組み上げる”方向での発揮が期待されるのです。
この「仮説構築力」「構想力」をもって、組織は「成果」を求めます。そこに必要なのが「リーダーシップ」です。
この「リーダーシップ」と組織内の「役職」との関係性について、著者は重要なポイントを指摘しています。
このあたり、しばしば、「役職」がそれに相応しい人を作ると言われる日本企業の考え方とは明らかに異なるものです。目的意識と時間概念の差でもあります。
さて、著者は、リーダーシップを発揮する人、すなわち「リーダー」のなすべきタスクを4つ示しています。シンプルですが、とても重要です。
この4つの中のひとつ「決める」について。
決断は、誰もが思い浮かべるリーダーの最重要行為ですが、その決断は、必ずしも「絶対の目標」ではありません。リーダーの決断は、より大きな「成果」をもたらすための「手段」でもあります。
こういうやり方が、著者の説く「リーダーの基本動作」です。そして、こういった考え方・動き方は、特殊な能力をもった人しかできないといった類のものではないのです。
大きな課題を目前にすると、多くの人は救世主を求めます。著者はそれを「スーパースターシンドローム」と呼んでいるのですが、一人の超人的リーダーが現れても、それだけでは世の中を大きく変えることはできません。
この「リーダーシップ・キャパシティ」を如何にして大きくするかが、変革力の大きさの最重要ポイントなのです。
小さな問題でもいいのですが、何か問題に直面したとき、人はふたつのタイプに分かれます。
「私が動くべきことではない、別に動くべき人がいて、その人に任せておけばいい」、こういった考え方からは「リーダーシップ」は生まれません。
如何にして「他人ごと」を「我がこと」「皆のこと」と捉えられるようになるのか、著者は、きちんとした訓練を受けることによって誰しもできるようになると考えているのです。
本書のタイトルは「採用基準」とありますが、内容は、マッキンゼーにおける人事採用マネジャーとしての経験を踏まえた「リーダー育成論」でした。