生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方 (高橋 宏知)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
日本経済新聞の読書欄でサイエンスライターの竹内薫氏が紹介していたので手に取ってみました。
「生命知能」「人工知能」「意識システム」等の基礎知識を整理しつつ、意識を高め育てる高等教育のあり方等についても論じた本です。
私にはちょっと専門的過ぎて理解がついていかないところもかなりありましたが、興味深い指摘も数多くあったので、その中からいくつか書き留めておきます。
まずは、「生命知能」や「人工知能」の位置づけについてです。
著者は、私たちの脳に宿る知能を「生命知能」と読んでいるのですが、本書の冒頭で、その「生命知能」と「人工知能」の特徴やそれらの関係性について総論的にこう語っています。
著者は、人工知能(自動化)と生命知能(自律化)は共生可能と考えているのですが、ただ、憂慮すべき兆しも感じています。
“課題を効率的に解く能力” は人工知能に浸食され、人間(生命知能)ならではの “課題を発見し設定する能力” が衰えつつあるとの認識です。
この課題設定能力は意識して鍛えなくては高めるどころか維持することすらできないものです。
もうひとつ、本書では、“知能” とともに “意識” についても考察しています。
意識の解説の中で興味深かったのは「因果性の推論」についてのくだりでした。
時間軸に応じて、脳が勝手に因果関係の整合をとるというのは面白いですね。
さて、本書では人工知能と生命知能をテーマに様々な論考が展開されていきますが、両者の関係は、代替関係ではなく、補完もしくは相乗関係だと著者は考えているようです。
このところ、一時に比して、“シンギュラリティ” という単語もあまり耳にしなくなったような気がします。
むしろ、憂慮すべきは、先にも紹介しましたが、私たちが本来堅持すべき “生命知能” の劣化でしょう。
この前読んだ「リスクを生きる」という本でも内田樹さんや岩田健太郎さんが対談の中で指摘していた “反知性主義” の台頭、「自分の頭で考えない」人々を生み出している社会の風潮はとても不安です。