わが記者会見のノウハウ―スキャンダル克服の秘訣 (佐々 淳行)
著者の佐々淳行氏は、警察庁OBで初代内閣安全保障室長も勤めた「危機管理」の専門家です。
本書は、数々の危機管理の修羅場を経験した著者の体験談と、それに基づく危機回避のアドバイスを記したものです。
紹介されているケースはどれも記憶にあるものばかりで、そこで語られる著者の言葉にも(思想的な立場はさておき、)十分なリアリティが感じられます。
たとえば、「交渉の場」での実体験を語ったくだりです。
確かに、国家間の交渉ともなると、拠って立つ事実認識の部分からズレがあるケースが多いわけですから、論理的な論法を使おうとしてもそもそも口火すら切れないということになってしまうのでしょう。そうなると勢い非論理の世界での“声の大きいもの勝ち”の戦いとなるのです。
さて、本書では、危機対応の場に際してのアドバイスが数多く示されていますが、その中から、これはというものをいくつかご紹介しましょう。
まずは、「ネガティブリスト」の重要性について。
このあたりのアドバイスは非常に実践的です。
対外対応をコントロールする要諦は、複数の口から発信される情報間の矛盾・齟齬を来たさないようにすることですが、この目的のためにも「ネガティブリスト」の共有は有効です。
かく言う、著者にも失敗はあったとのこと。
ただ、この「タイミング」が難しい。結果として後手を踏んでしまいがちです。だからこそ、最初から「舌禍」を招かない注意・準備が大事になるのでしょう。
もうひとつ、著者が巻末に記した「記者会見の心得10カ条」。
原則論から具体的方法まで雑多で体系的に整理されてはいませんが、現実のシーンでは参考になります。
特に私が注意すべき心得は、第四条です。まさに著者の指摘のように、「相手の言うことは理解した」というつもりで「うなづく」ことは結構ありますから。確かに、これは誤解を与えるもとになりますね。