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望まない孤独 (大空 幸星)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 いつも聞いている大竹まことさんのpodcast番組に著者の大空幸星さんがゲスト出演していて、自らの生い立ちやその体験を踏まえ立ち上げたNPO法人の活動の話をしていました。

 まさに今日的なテーマでとても刺激を受けたので、その営みを記した本書を手に取ってみたというわけです。
 印象に残ったエピソードやコメントのうちのいくつかを書き留めておきます。

 まずは、論考を紹介する前に、大空さんが区分する2種類の「孤独」についての説明部です。

(p56より引用) 一つ目が「積極的な孤独」。英語では、Solitude (ソリチュード)と訳される。例えば、友達や家族が周りにいてもひとりになる時間をつくったり、ひとり暮らしで友達付き合いがほとんどなくても「平気」という場合などが、この積極的な孤独に当てはまる。すなわち、自らの意志でひとりでいることが積極的な孤独、ソリチュードだ。孤独というよりは孤高に近い。

(p58より引用) もう一つの孤独は、英語ではLoneliness (ロンリネス)と訳される「消極的な孤独」、すなわち〝自らが望まない孤独〟だ。

 大空さんが本書で取り上げる孤独は、積極的な孤独(ソリチュード)ではなく、この望まない孤独(ロンリネス)なのですが、この2つの孤独の区分を意識しない問題点としてこんなケーズを指摘しています。

(p60より引用) 書店に行くと、多くの雑誌や書籍などで、社会的孤立と孤独の違いや、望まない孤独の存在を無視した「孤独を愛せ」「孤独が人を強くする」といった言葉が躍っている。積極的な孤独(ソリチュード)を、人間関係のストレスなどから離れる必要がある人だけを対象にして、限定的に推奨することは問題ない。しかし、誰かとのつながりを欲している人や、望まない孤独を抱えてひとりで悩み苦しんでいる人に対してまで、孤独を礼賛し推奨するのは極めて酷で危険な行為である。

 私もここで取り上げられているトーンの本は何冊か読んでいますが、その時には、私自身、極限的な「望まない孤独」の環境にいる当事者の受け止め方までは思いが至りませんでした。大いに反省です。

 さて、この「望まない孤独」は現代社会に数々の深刻な問題をもたらしています。
 大空さんの指摘の中で、特に私が気になったのが「若者の自殺の増加」。これは「若者の孤立の本質」に起因しています。

(p99より引用) このケースを踏まえて、改めて考えなければならないのは、Bさんは社会的孤立状態にはなかったという点だ。 Bさんは常に家族や友人に囲まれていた。・・・ 客観的に把握可能な社会的孤立のみに焦点を当てると、Bさんが抱える孤独の本質に気づくことはできなかっただろう。Bさんだけではなく、多くの子どもや若者たちが、社会的に孤立していなくても、周りの人には頼ることができず、ひとりで悩みを抱え苦しんでいる現状がある。こうした子どもや若者の孤独の本質への理解が社会的に乏しいことが、子どもや若者の自殺がなかなか減らない背景の一つにあるのだ。

 「まわりが心配してくれているのにもかかわらず・・・」と考えてしまい “負のスパイラル(自己否定ループ)” に陥ってしまう若者たち、彼らも大空さんの相談窓口が頼りなのです。

 そして、このせっかくの相談窓口の活用にあたって精神的抑止要因になっているのが自己責任論に毒された「スティグマ」です。

(p176より引用) 提言の四つ目は、「孤独に対するスティグマの軽減と正しい理解の普及」である。・・・孤独や自殺といった問題にまつわるスティグマは、「頼ることは負け」「誰かに頼っているのを見られるのが恥ずかしい」といった感情を喚起させる。このスティグマによって、いくら支援制度を拡充し、民間団体を支援して頼れる人のパイを増やしたとしても、真に支援を必要としている人に届かないといった状況が起きてしまう。

 困ったときに「誰かに頼ること」は決して恥ずべき事でも間違ったことでもありません。ましてや、自分の力の及ばない深刻な悩みに陥っているのですから、社会のセイフティーネットに縋ればいいのです。“それが当たり前” の社会にするのは「一人ひとりの考え方」次第です。

 さて、最後に本書を読んでの感想ですが、稀にみる強烈なインパクトを持った著作でしたね。
 ここに記されている大空さんの情熱と行動力には驚きを禁じ 得ません。
 立ち上げた「相談窓口」のコンセプト・運営方法の緻密さはもとより、そのアクションのスピードや拡がりは卓越していますし、大空さんが取りまとめた「総合的な孤独対策の実現に向けた提言」の実現に向けた執念は物凄いものがあります。

 大空さんの努力で立ち上がったこの取組みを、後に続く政治や行政がどこまでしっかりとフォローしていけるか、何とか継続的なサポートが続くことを強く望みます。
(第三者として “望む” だけではなく、私たちとしても何をやるかが大切ですね。さて、私は何をやりましょうか。)



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