
老人をなめるな (下重 暁子)
いつも利用している図書館の書架を眺めていて目につきました。
私も “老人” と呼ばれる年代に突入してしまったので、タイトルにも親近感を抱きますね。
著者の下重暁子さんは、NHKのアナウンサーとして活躍後フリーとなり、その後文筆家として多彩なジャンルの作品を世に送り出しています。
本書は、そんな下重さんの得意なテーマのひとつである “高齢化社会” を扱ったエッセイで、“明日は我が身” だからというノリもあって読んでみました。
結果ですが、正直なところ、かなり期待外れでしたね。
“私は、他の人たちとは考え方が違うんだという思い込み” という強烈な自己主張が、ちょっと表に立ち過ぎていたようです。
エッセイなら、著者ならではの “感性” が、とりあげたモチーフの相応しさとともに伝わってくるのですが、そういったテイストの小文でもなく、時事評論なら、しっかりと事実把握を行ったうえで、自分だけの脊髄反射的な感覚ではなくもう少し多面的な観点から掘り下げた論考を展開するべきでしょう。
(p193より引用) 家庭内のことだから、詳しい事情はわからない。あくまで一般論だが、私は親を殺す子供も、子供を殺す親も、基本は同じだと思う。どちらも社会性が極端に欠如している。
といったコメントは、個別かつ複雑な人間関係が背景にあるセンシティヴな要因を乱暴に捨象していますし、「身勝手な殺人者には生涯強制労働を」とか「親は引きこもりの子供を放り出せ」といった見出しは、下重さんが付けたものではなく編集者による勇み足なのかもしれませんが、あまりにも短絡的な書きぶりです。
これでは、歳を重ねた下重さんの日頃の愚痴を単に語り放っただけの本だと評さざるを得ませんね。とても残念です。