宣井 龍人

還暦の背中が遠ざかりつつあるおじさん。 文学、映画、絵画、音楽、 落語、漫才等の大衆芸能、神社仏閣、滝巡り、星空、古生物、野球、競馬、下手な将棋・麻雀、昭和のプロレス、古いSFテレビドラマ、懐かしい街並みなどが好きです。 詩、エッセイ等を書きます。宜しくお願い致します。

宣井 龍人

還暦の背中が遠ざかりつつあるおじさん。 文学、映画、絵画、音楽、 落語、漫才等の大衆芸能、神社仏閣、滝巡り、星空、古生物、野球、競馬、下手な将棋・麻雀、昭和のプロレス、古いSFテレビドラマ、懐かしい街並みなどが好きです。 詩、エッセイ等を書きます。宜しくお願い致します。

最近の記事

契り(たびぽえ第4号掲載)

何故 心の声が 聴こえなかったのだろう 聴こうとしなかったのだろう もっと できることがあったはずだ すれ違い 出会ったはずだが 見つけることはできなかった すれ違い 永遠の別れだった 朽ち果てたホームにひとり まだ遠く声が聴こえるはずだ

    • タラレバの雪

      どうも心が晴れない 重く沈んだままだ 思い浮かぶのはタラとレバ タラとレバと書かれた雪が チラホラタラレバ舞ってきた 事実や結論 そいつらがドカッと座り込み 威張り散らすものだから 時間をグイッと巻き戻し タラレバタラレバ嵌まり込む いくら突き詰めても 何ら風景は変わらない 虚しさや切なさだけ 心に積み重なっていく そこによじ登り腰掛け またタラレバタラレバ 頭や肩に虚しさや切なさが また音もなくずっしり 今日も進歩がないな 以上 と降り積もる などと自虐ネタに

      • 道化師

        海が果てまで引いてしまった砂浜で 音が空白に吸い込まれてしまった砂浜で 命が香りを流され尽くしてしまった砂浜で 呼ばれてもいない 道化師がひとり 断絶から浮かび出る 世の中から剥がされた色を纏い 華美の崩れた醜態を晒し まだらの息を吐きながら じっと沈黙と対峙する その視線は 絶望にしか届きはしない 孤独しか見るものはいない 千切れかかった手足に猶予はない 道化師は大きく生唾を飲み込む 自らの震えを振り切った今 忘却への階段を上り 意識の舞台で 最後の演技が始まる

        • 悲しい旅人

          今できないことは 昨日が持って行ったこと 記憶の扉が ひとつずつ倒れていく 手を結んだはずの言葉が もう千切れる 飛び立った蝶々は 虚空を舞う 貴方は 己を消していく旅人 過去を流れた星たちの 微笑みさえ知らない

          野良のさよなら

          野良が挨拶しているよ 疲れた毛を励まして 露出した皮膚を隠し 道の真ん中を 人々の営みの中を 堂々と 野生の威厳を振り撒き 声ひとつたてず 冷たい日差しを歩いているよ こそこそと視線を伺い 自転車の陰や薄汚れた溝を こそこそと 速足だった野良が 今日は歩いているよ お世話になりました 長い間有難う 野良が挨拶しているよ 大地を強く踏んでいる 十字路を右に消えていく 精一杯振る立てた尻尾 さようなら さようなら 野良が挨拶しているよ もう僕は前が見えなかったよ

          野良のさよなら

          酒場にて

          俺のような誇り高い男はな… そのとき彼は一段と高らかに笑った そして転げ落ちていった 何処までも転げ落ちていったのだ 私は月明かりの映える窓際で 杯から転げる音を聞いていた どっぷりと落ち着いていた 真夜中と語らいながら杯を重ねた 自問自答していた 転げ落ちたのは誰なのだろう グラスの月は答えない もうすぐ次の日かもしれない いや違うかもしれぬが どうでも良いことだった

          夜も更けて電車に乗って

           私の住んでいる所、勤務している所は、電車が発達していて、高校時代から通学、通勤とも、ずっと利用させていただいている。    通勤の特に行きは、通勤時間帯であるので、居場所の確保も大変だ。  身体が三つ折くらいになって、やっと携帯のメールを見る空間がある位の時もある。    帰りが22時、23時、それ以降になると、かなり酔った乗客が増えてくる。  私自身が、そちらのサイドに回る事もあるので、気になるところである。    楽しいと言えば楽しい。  親しみが持てると言えば持てる。

          夜も更けて電車に乗って

          春が淋しい

          Ⅰ 風は見つめていた 少しずつ大人になる僕たちを 日は見つめていた 少しずつ眩しくなる僕たちを 静かに時は過ぎていく 僕は砂時計を放り投げた Ⅱ 伝えたい 伝わらない 伝えたくない わかりたい わからない わかりたくない 伝わったら わかったら 終わってしまう Ⅲ 下を向いて歩いたよ みんな口を開かない 思わず石を蹴っていく 僕たちはみんな知っていた 明日で終わり 最後の帰り道 見える景色は同じ 何で明日が最後なの ずっと一緒にいたいんだ 走り回った校庭 み

          春が淋しい

          あの夏を忘れない

          スコーン! ラケットが気持ち良くボールを弾く 30面近いコートは汗と歓声を楽しんでいた 僕らは真ん中あたりのコートでダブルス戦 傾いた日射しは徐々に低く 湧きだした雲が途切れ途切れにした頃のこと 「うああ」 突然端の方のコートから叫び声がした 逃げ惑う人たちを追いかける激しい雨 雨のカーテンが音を立てて激走する 僕らも駆けたが忽ち追い抜かれた あっという間にびしょ濡れだ 無数の雨粒たちが僕らにさよならした お互いおかしな顔を見合せ吹き出した 雨を拭き取り一休み も

          あの夏を忘れない

          猫の箸受け

          君は猫の箸受けになった 大好きな猫の箸受けになった 覗いても叩いても隠れん坊 仕方ないから箸を置く 可愛い少しとぼけた箸受けだ 祖母は鮭をくわえた熊になった 父は抱腹絶倒の民謡になった みんな何処にも行っていない 何があっても我家はここだ 今朝も君の胸に箸を置く

          猫の箸受け

          手術した夜に

          まるでたった今生まれたかのようだ 突然目の前の視界が開けた 病室では看護師さんが忙しそうに動く 時刻を尋ねると夜の7時半だそうだ 7時半か…心でぼんやり呟いた  朝8時半に徒歩で病室を出た  手術台に乗ったのは9時前だっただろう  心電図や点滴等を装着され  まもなく時計を落としてしまったのだ  夢を見ることさえ許されなかった 看護師さんがモニターする 体温38度7分 脈拍102 収縮期血圧168… 体のあちこちの痛みが表示される 酸素マスク ドレーン カテーテル 点

          手術した夜に

          ある晴れた日に

          その夜私は心地良さに誘われ近くの公園をぶらついた。 二十歳になったばかりだった。 奥まった先のベンチには品の良い老人がひとり。 横に立つ街灯の光に暗闇からほんのり浮かんでいる。 よく見ると少し古めかしい衣服を着ている。 私は引かれるように見ず知らずの老人の横に座った。 老人は「ある晴れた日に」と自分を語り始めた。 不思議なことに老人の話が脳内に映画のように広がる。 生誕に始まり幼少時から成長していき青年、壮年と。 老人の喜び、怒り、哀しみ、楽しみなどが私自身に感じる。 そして

          ある晴れた日に

          今は貴方ではないのです

          いるはずです いるはずです 貴方を探しています ふと帽子を撫で 微笑み返してくれた人は 貴方ではないのです 旅立ちの窓越しに 涙をそっと靡かせた人は 貴方ではないのです 木陰で白い雲たちと 見果てぬ夢を語った人は 貴方ではないのです 沢山の貴方を見てきました 行き交う人現在過去未来 今は貴方ではないのです 月明かりに照らされて 待ち焦がれた面影を懐く人は 貴方ではないのです

          今は貴方ではないのです

          三つ目のおじさん

          僕はおじさんが好きだった 名前は知らない 額の中心にいぼが威張って 二つの目と正三角形 三つ目のおじさんと呼んでいた おじさんは近くの床屋にいた 優しかった いつもにこにこ 同じ目線で話してくれた 僕等は歳の離れた親友だった 大きい川を教えて! 馬入川! そんな川、地図にないよ あるよ〜 楽しそうな真顔だった 相模川の別名とわかったのはずっと後 おじさんと映画にも行ったね すみませんねなどと母に送られて 何か悪い事したかなあ 流行の東宝特撮映画 人間が化けキノコになって

          三つ目のおじさん

          焼き場にて

          口元から読経がながれる もの言わず燃えたぎる焼き場にて 圧倒的なあの世が降りてくる 惜別をぶち抜く感情のほとばしり わなわなと肩が共鳴する後ろ姿 人目を払いのけ崩れ落ちる黒影 命に区切られた向こう側で 貴方は何の遠慮もなく燃えている 果たしてこんなことが許されるのか 一滴まで身ぐるみ吸いとられた海 まとったベールを引き剥がされた砂漠 棺やら壇やら壺やら哀れな置物たちよ 死というだけでは何も読めない 彷徨い続けた証をみながら この世にあの世を支払い続ける 焼き上がった

          焼き場にて

          幼子

          立ち上がって 空を掴んで よちよちと 幼子の驚きと喜び 木漏れ日が見つめる 大きな母への道程 ほんの2、3歩だが 初めて踏みしめる ずしりとした重み 公園に遊ぶ陽光の幼子 母の湧き溢れる喜び 眩しさが目を瞑るとき 生まれた風が頬を撫でる