三つ目のおじさん
僕はおじさんが好きだった
名前は知らない
額の中心にいぼが威張って
二つの目と正三角形
三つ目のおじさんと呼んでいた
おじさんは近くの床屋にいた
優しかった
いつもにこにこ
同じ目線で話してくれた
僕等は歳の離れた親友だった
大きい川を教えて!
馬入川!
そんな川、地図にないよ
あるよ〜
楽しそうな真顔だった
相模川の別名とわかったのはずっと後
おじさんと映画にも行ったね
すみませんねなどと母に送られて
何か悪い事したかなあ
流行の東宝特撮映画
人間が化けキノコになって
暴れまわって
怖かったなあ
夕食後大人ぶって会いに行ったこともある
おじさんは剃刀の手入れをしていた
もう夜よとその家のお姉さんに怒られた
おじさん笑いながら困っていたな
僕は強風に煽られるように逃げ帰った
もう二度と夜には行かなかった
ごめんね、おじさん
ある時、おじさんを食堂で見たよ
焼き魚の御飯を食べていた
御飯は皆で食べるものと思っていたけど
おじさんは独りで食べていた
いつもそうなの?
寂しくない?
やがておじさんはいなくなった
伸びてもいない髪で
床屋をのぞいても
来る日も来る日も姿がない
今度はいつ来るの?
もう来ない・・・、病気なんだ
床屋の主人は呟いた
それから間もなくだった
亡くなったと聞いたのは
おじさん、何処へ行ったの?
ずっと一緒にいたかったな
僕は一人ぼっちだ
おじさん、早く生まれ過ぎだよ
僕は・・・、僕は遅すぎた
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